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「この休みは帰省するんでしょ?」
「えぇ、両親の顔を見に」
たまに荷物が届いたりするし、今はどこにいても連絡が取れるからあまり顔を合わさなくても久しぶりな感じがしなかったりするけど。それに親も別に帰って来たかったら帰ってくれば、的な感じだったし。帰らなくてもいいんだけどなー。
「それじゃぁそっちで誰か良い人いないの?」
「良い人ですか?」
どうだろう? 声を掛ければ見合いの一つくらいあるのかも、田舎だし。
「同級生とかいるでしょ?」
「・・・あぁなるほど」
残念だけどその線は限りなく薄い。だって両親は俺が家を出てから引っ越しをしたから。隣に住んでいる人の名前すらあやふやだ。
「そっか、残念だな。そういう出会いだってあるのに」
「実は田所さんがそうだとか、ですか」
そう訊くと田所さんは、ふふふ、と笑って見せた。
「実は、ね」
「奥さんですか?」
「そう。学生の頃は全く興味が無くて本当にパッとしない奴でね。社会人になってから、たまたまこっちに帰省していたアイツと再会したんだよ。びっくりするくらい綺麗になっていて大人になっていて」
かろん、と静かな店内に氷のぶつかる音が響く。田所さんは遠くを見て言った。
「でも一目でアイツだって分かった。じっと見ていたらアイツも振り返って。どうしようかと思ったけど視線を外せなくて、そしたらアイツが、ふふ」
「奥さんが? どうしたんです?」
続きを催促するとそこまで話したのに、今更恥ずかしそうにして言った。
「笑って小さく手を振ったんだ。咄嗟に俺じゃないと思って振り返って確かめたんだけど、後ろに誰も居なくて。そうしたらアイツが笑って駆け寄って来たんだよ、久しぶり元気にしてる? って」
そう話す田所さんはいつも店先でみる表情とはうんと違っていた。奥さんに向ける顔はいつも面倒くさそうなのに、今はとても穏やかで柔らかい。
「素敵なお話ですね」
「あっや、そう言うんじゃないから」
そこまで饒舌に話していたのにブンブンと顔を振って「違う」と言い出す。何が違うんだい。
「た、ただそう言う出合い方もあるって事だよ! y花菱君にはちょっと難しそうだけど!」
「ふふ、そうですね、残念です。そういう出会い方も憧れるんですけれど」
そう言っても赤い顔をした田所さんはバツが悪そうにグラスを仰ぐ。
素敵だと思うのは本当のことなのにな。
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