それは偶然か必然か

カゲトモ

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「いやぁ、でも本当に良かった、まだ開いていて。もしかしたらお盆休みに入ったのかと思っていたから」

「すみません、毎年休みを頂いているから」

 バーで盆暮れ正月の休みがあるのは珍しいのかもしれないけど、修行していたマスターの所でも休みだったし、第一近くにあるビジネス街はこの時期休みの所が多い。開けていたって儲けが出ないのなら閉めていた方が良い。

「いやいや、休みが少なくて心配するくらいだよ。俺としてはもっと休んでもいいって思うくらいだけどね。花菱君は働きすぎだよ」

 なんて畳屋の田所さんが笑って言う。田所さんの所は既に盆休みに入っているらしい。

 いやしかし嬉しい事を言ってくれるね。もちろんダラダラ休みたいって気持ちもあるけど、でも俺はこの仕事が好きだから。

「そんなこと言って。彼女の一人くらいいるでしょ?」

 一人くらいってなんだ、二人どころか誰もいねぇよ。

「え、そうなの? 花菱君イケメンなのにもったいない」

 もったいないって。そんな良い顔してないでしょうよ。

「分かった、何か理由があって付き合ってないんだ。この女の子泣かせ~」

「もう冗談ばっかり」

 第一俺は女の子の泣き顔には弱いんだ。めっきりね。

「意外だなぁ。でもまだ若いしね、仕事が面白い歳か」

「それももちろんありますけれど、あんまり結婚とか考えていなくて。ダメですね、一人でいた時間が長いと面倒になってしまって」

「えーもったいない」

 ちょっとそれどういう意味のもったいないよ?

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