遭難

 最悪だ、道に迷ったかもしれない。国境から真っ直ぐ行けば村があるはずなのに、何故か一向に村が見つからない。



「くそっ、なんにも目印がないのにどうやっていけって言うんだよ!」



寒さと焦りでイライラが募っていく。吹雪で視界も悪くなってきた。



(これ、マジで死ぬんじゃ……)



何も無い、何の声も聞こえない、怖い、寒い、寒い。恐怖でいよいよ涙が出てきてしまった。いい歳して泣くなんて、と自分を嘲笑う。



もう二度と温かいご飯を食べれないかもしれない。

もう二度と暖かい布団で眠れないかもしれない。


もう二度とユリカ先輩とご飯に行けないかもしれない。


もう二度と…



たくさんのネガティブな考えがあたまを埋め尽くす。私は死ぬのか?なんだか眠たくなってきた。元々頑張るのは好きではないのだ、眠ってしまえばきっと楽になる。そう思い瞳を閉じる。







(いやいやいや、寝たらほんとに死ぬってば!そこは頑張れや!)



 唇を噛んで目を覚まさせる。とにかく落ち着かなければ…すぐ焦って悪い方向に考えるのが私のダメな所だとユリカ先輩が言っていた。



「何か問題があったら周りの状況を落ち着いて前向きに観察すること、自分に今何が出来るかを考えること」



周りは…真っ平らで真っ白で何も無い、誰もいない。私にはなにができるだろうか?私は今何を持っている?



荷物を見てみても助けを呼べるものは無さそうだ、なんで救難信号を上げれるものを持ってこなかったのだろう。



「う~、前向きになんて、無理だよ…」



もっとちゃんと遭難の事を考えて荷造りすれば良かった。そしたら助けも呼べたかもしれないのに…



遭難の確率が高いのにそういうグッズを持ってこなかったのは私の判断ミスであり失態だ。なぜ持ってこなかった、私のバカめ!



(寒い、立ち止まってたらほんとに死んでんしまう)



だけど吹雪は止みそうにない、寒い、眠い



私はなんてバカなんだろう、あんなに危険だから気おつけてとみんなが言っていて、自分でも思っていた。だから警戒していたのに。何一つ役に立つ物も、知識も持っていない。



「はぁー?何かムカついてきた!テント立てて寝てるやるし!」



 周りには何も無いし視界も悪い、持ってるのはテントだけ、そして私は眠い。ならばテントを立てて寝ればいいじゃないか。



それはきっと得策ではないのだろう。しかし、それが今の私に出来ることであり、前向きなことだ。明日のことは明日の私が考えてくれるだろう。死んだら死んだで運がなかったのだ。



「私みたいな経験の浅い配達員を雪の国へ行かせて死なせたとして会社が叩かれればいいんだ、ばーか!おやすみ!」



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