入国審査
雪の国の調査基地までは片道で3泊4日ほどかかるかはずだ。とりあえず出発前に立てたこれからの予定を確認する。
とりあえずここから城壁の中の街まで全速力で行くしかない。ヴォルフガングと言う長距離配達員にのみ支給される空飛ぶ乗り物に乗りながら御生誕祭に浮かれる人々の上をを飛ばして行った。
「こんにちは、青空郵便ひのき
国から国へ移動するためには入国審査を通過しなければならない。当たり前だが、王国への入国審査は1番厳しい。
「どうも、お疲れ様です。それでは荷物を確認させていただきますね」
持ち物を全て台の上に並べて入国審査官に預ける、そして自分は金属探知機のセンサーを潜り荷物より先に王国領土内に入る。
(先月の入国審査官は私好みのイケメンだったのに今日の担当はあの人じゃないのか、楽しみにしてたのにな、うーん残念)
今回は先月とは違い女の人が担当だった。お姉さんには申し訳ないがこの仕事の楽しみの1つが消えたので少しテンションがさがってしまった。
「はい、お待たせしました。荷物検査終了です。これから雪の国への配達なんですね、お仕事頑張ってください!」
そう言いながら笑顔で荷物を手渡しでくれたお姉さん。おそらく荷物検査の時に箱に書いてあった宛先が目に入ったのだろう。
「えっあぁ、ありがとうございます。お姉さんもお仕事頑張ってください」
予想外の言葉をかけられて少し驚いた。元々人と喋るのはあまり得意ではないため目が泳いでしまう。
それにしても、笑顔ってだけでも好感が持てるのに荷物をわざわざ手渡ししてくれ、更には私の仕事の気遣いまでしてくれるなんて…いい人すぎる。
私のお姉さんへの好感度が急上昇した。何とも単純な事だが、こういう些細ないなことが私の幸せになるのだ。
(いい人に会ったな、残念とか思ってごめんねお姉さん)
心の中でお姉さんに謝り、私は勢いをつけて空へ飛んだ。
王国には大きく分けて4つの地区があり。王の住むお城や大きな商店街がある城壁の中の
さっき私が入国審査を受けたのは王国の森にある国境で、これから森のだいたい真ん中にあるビジネスホテルに向かう。
王国の森は厳重に自然管理されているため、かなり綺麗で観光客も多い。その為、観光客用のホテルも多くある。
飛ぶには向かない森だが、私はこの森を通るのが好きだ。木漏れ日が漏れて地面が緑色の宝石を散りばめたように輝いている。たまに吹く控えめな風も心地いい。
観光客の楽しげな声も、鳥達のさえずりも、葉っぱが風で擦れる音も私に幸せを感じさせてくれる。
気持ちのいい午後だ。
予約をしていたホテルに着き、道中で買ったサンドウィッチを食べながら明日の予定を確認する。
「明日は鋼の国に入国して、そこから雪の国の国境前で1泊すると…ちゃんと早起きしなくちゃな」
この仕事の1番嫌いなところは朝が早いことだ。起きる時間が遅くなると移動の時間が少なくなってしまう。そうすると会社から「まだ配達が終わらないのか」と催促の電話がきて、最悪その配達分の給料が半減になってしまう。恐ろしい…
早起きが苦手で体力も人並みな私がよくこの仕事でやっていけているのは、今日の入国審査のお姉さんや配達途中に見る綺麗な景色などといった、たまに感じる小さな幸せのおかげだろう。
それに、知らない土地に行ってみたいという好奇心は誰よりも強い自信がある。その好奇心からこの仕事を続けているのかもしれない。
「とりあえず、明日に備えて早くお風呂入って寝よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます