第43話芋虫が蝶になるように
リーチェの一件より数日後の夜。夕食の後、ハルキはアイレンと一緒のテントで眠りに就こうとしていた。小さなテントだったが、中央に簡易暖炉があり、床は絨毯と毛皮が敷かれてとても暖かい。
このテントはハルキとアイレンとオリビアとリリーが使っていて、今は大人二人の姿はない。
「え、えと、たとえば、芋虫が蝶になるように、生き物は死んだら一旦精霊になるの。で、一番月へ向かうの」
暖炉の前に寝そべって、ハルキはアイレンの話を聞いていた。この国で広く知られている言い伝えの話だ。
「一番月はどんなだっけ? 緑の月だよね?」
「うん、死者たちが暮らす星。そこで違う生き物になるんだって……そ、そういう宗教があるってお母さんが言ってた。信じてる人は半分くらいかな。多分、死ぬのは怖くないって教えだと思う」
「アイレンは? 信じてないの?」
「兵士たちがそれを信じて、むやみに死んでゆくって聞いた時から、なんか違うなって……待ってる人のこと、大切だったら、帰ってくると思うんだ」
ときおりテントの近くを兵士たちが通り過ぎるが、それ以外は静かだった。
「そっか……」
パチパチと爆ぜる薪の音が心地よく、炎に照らされるアイレンの横顔を、ハルキは重たくなったまぶたで見ていた。
「……ハルキ君の国は、ど、どうなの?」
そう言われて、少し困った。日本について詳しく知らない。人に教えられるほど自分の住んでいる国の事を考えたことはなかった。
「僕の国は……ぶ、仏教? えーと……ごめん、分からない……というより知らない……かも」
ハルキは正直に言った。
アイレンはきょとんとした表情で「お母さんは教えてくれなかったの?」と訊いてきた。
「親、いないんだ。両方とも」
はっとした顔で、アイレンは「ごごごごめん……」と目を泳がせた。狼狽え方が漫画みたいで、逆に愛おしく感じた。
「いいよ、慣れてるし」
長い沈黙が続き、ふいにアイレンが口を開いた。
「見てみたいな、ハルキ君の国」
アイレンの視線は真っ直ぐハルキに向けられていた。
「じゃあ、いつか連れてってあげるよ」
「ほんと?」
アイレンの顔が華やいだ。
「でもどうやって?」
「時間はかかるかもしれないけれど……約束するよ」
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