第13話ドリームウォーカー

ウエムラはそれだけ言って、最後にエリに「私も一皿貰おう」と囁いた。エリはすぐに端末を操作した。


「たった今、対象区域の保安部長たち、グループ傘下の担当者たちと会合してきた。巷で話題の〈新型ナルコレプシー〉の原因が、〈第三夢層〉にあるという証拠が出た。内偵しているイタリアのチームが目撃したそうだ。巨大な塔の上に青い光球が乗っている、一種の新型兵器と思われる。ミュンヘルの戦士たちは〈光球霊塔〉と呼んでいるそうだ。それがシャガルム帝国内に複数存在する」


「もしかして〈第二夢層〉の青い太陽もそれですか?」


部下の声にウエムラは「そうだ」と答えた。


「〈新型ナルコレプシー〉は光球霊塔がある位置と近い国々で多く発症している。これまでの調査から、こちら側の人々の生体エネルギーを吸い取り、兵器もしくは燃料としている可能性が高い。生体エネルギーはいわば魂だ。魂を取られた人間は意識を失くした身体だけの存在となる。……事が判明した以上、もう黙っているわけにもいかんという話だ」


 ウエムラは短い白髪の頭を撫で付けた。


「これより我が社の〈ドリームウォーカー〉総出で光球霊塔を破壊する。〈第三夢層〉はまだ戦乱が続いている。シャガルム帝国に対抗している国々と重なる場所が拠点となる」

 

壁に設置してある大型画面に世界地図が表示され、そこに〈第三夢層〉の地図が重なった。


「インド及び中央アジアのチームはシュザ国、ヨーロッパのチームは西の戦線、キトゥルセン共和国。帝国国内の光球霊塔はロシアのチームが破壊工作をする。東アジアの我々はミュンヘル王国。台湾のチームも来日してバックアップに回る。以上、これらを〈イービルアイ作戦〉と呼称する」


 そこまで説明したウエムラは葉巻を深々と吸い、勢いよく煙を吐いた。


「もう一つ。先日〈ニノミヤハルキ〉が〈第二夢層〉からミュンヘルの戦士たちと共に〈第三夢層〉に入った」


 初めて聞いた数人が驚きの声を上げる。


「昨日の担当はレイイチだったが、運悪くミュンヘルの戦士たちと鉢合わせ、さらに〈構築師〉にも見つかってしまった。エリもずっと監視していたがタイミングが合わなかった。レイイチに非はない。マニュアル通りのことをしたまでだ」


 数人がレイイチを見た。


「これは〈球史全書〉に書かれている事が起こったと考えて間違いないだろう。エリとレイイチでも止められなかったというのは、そう決まっていたとしか思えん。ミュンヘル国王の許可が取れ次第、我々も〈第三夢層〉に入る」


言葉を発する者は誰もいなかった。皆、固い表情だ。


「我々が保有する〈球史全書〉の情報はごく一部……反対に帝国側はすでに数十枚の〈球史全書〉を保有していると思われます。これから起こることをある程度知っている可能性が高い……それと、各国政府も動き出したとの報告があります。我が社のテクノロジーの方が数段上ですが、油断はしないように」


 黒縁メガネに手をやり、エリは事務的な口調でウエムラの後を紡いだ。


「今回が本当の始まりだろう。これから両世界の時代が大きくうねり始める……。〈ニノミヤアオイ〉の方も保護した方がいいだろう。この国の政府よりも先にな。リュウ、お前のチームに任せる」


「了解しました」


 リュウは直立不動で応えた。


「私はこれからマルベックと会合する。エリ、レイイチ一緒に来てくれ。それとササキ、ホテルは休業、一般の従業員は家に帰せ。……これより〈CS計画〉を実行に移す」


 全員に緊張が走る。まさか現実のものになるとは、というのがその場にいたほとんどの者の意見だった。


〈CS計画〉――――チャイルドサルベージ計画。


このプランが実行されるという事はすなわち、出口のない暗闇に足を踏み入れることを意味している。


リュウは去り際、レイイチと視線が合ったが、二人とも何も言わずに別れた。

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