第6話昔言ってたあの夢

「ねえ、ハルキ、昔言ってたあの夢、まだ見てるの?」


「……うん」


「毎晩?」


「毎晩……」

 

真剣な顔で迫る姉の表情に、ハルキの口は動きを止めた。なんだか怒られた気分だった。


「その夢、なんか関係あるのかな……。ていうか睡眠時間が徐々に長くなってるのも初期症状の一つかも……」


また一人で呟き、それからアオイは眉根を寄せ、何かを考えている表情でうつむいてしまった。


「あ、これですよアオイさん、これ」


 風子が居間のテレビを指差した。


「チビども、静かにしろっ!」

 

彩友美がテレビの前で騒ぐ子供たちを黙らせ、リモコンで音量を上げた。


『半年ほど前から主に北半球で報告されている眠り病、いわゆる新型ナルコレプシーですが、WHOの対策本部によりますと、昨日までに患者数は各国で40万人を突破したとの発表がありました。日本での患者数はおよそ5万人に上る模様です』

 

アナウンサーが淡々と話した後、画面はどこかの病院を映した。

日本ではないらしい。

奥まで続く細長い病室に、患者の寝そべるベッドがずらりと並んでいる。


「眠ったまま起きないって以外には、身体に異常はないんですよね」

 

そう口を開いた風子に「えーじゃああたしそれなりたーい。ずっと寝てられるんでしょ。いいじゃーん」と彩友美がへらへらと笑う。


「ちょっと彩友美、ハルキがそうかもしれないのにふざけないでよ」


「そうですよ、不謹慎ですよ。それにそのまま息を引き取るケースもあるんですから」


 アオイと風子にそろって攻められ、彩友美は「冗談だよー」と力ない声を出した。


「ごめんね、ハルキ君」

 

ハルキにとっては別にそうと決まった訳じゃないので、謝られても困ってしまうのが正直なところだ。それにハルキ自身は全く三人の話に興味を持っていなかった。


「ちょっと心配だなあ……。ハルキ、明日か明後日、病院連れて行ってもらおうか。美恵子お母さんにも私から話しておくから」


「ええ、いいよ……」


面倒くさそうに口を尖らしたハルキだが、二人の事に関してアオイの発言は絶対に覆らないのを知っている。親のいないハルキにとって、アオイが母親の代わりなのだ。

 

テレビの中のアナウンサーは続ける。


『……なお、有効な治療法はいまだ見つかっていないとのことです』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る