第4話 そこでは、皆がぼくたちを待っていて。

 ヨハンがあたりを見回していると、乗組員たちが二人のほうへ駆け寄ってきた。皆一様にうす灰色のつなぎを着て、大半のものが黄色いヘルメットをしている。その中に一人白いヘルメットをかぶった男がいた。おそらく主任だろう。彼のほうが先に口を開いた。

「客人の方、艦長がお呼びです。それからリーナ、あんたもだ」


 艦橋にいる士官たちは黒の軍服を着て制帽をかぶっていた。肩章のないものから金三本の艦長まで、ざっと十名程度が勤務していた。艦長は立ち上がってヨハンに向かい合うと、敬礼してこう言った。

「リーナの表情を見るとあなたが我々の友人フェイエール中尉を殺したのではないことはわかります。事情が事情なので、早急にあなたのお話をお聞きしたい」

「ご歓迎痛み入ります。お話の前に、一つお聞きしたいことがあります」

「何でしょう」

「リーナが持ってきたこの拳銃はどうしましょうか」

 副長が進み出てそれを受け取った。艦長が言った。

「では、最大速度維持、まっすぐ河口へ向かえ」

「了解」

「それから副長、一等航海士、戦術参謀の諸君は私たちと同席してくれ」

 総勢六名は艦橋の一つ下にある士官食堂に移った。 艦長が上座に座り、その両側にリーナとヨハンが座った。残りのものと、電話で呼ばれた機関長(さっきの白いヘルメットの男だった)及び無線長は適当に席を見つけた。

「ではリーナ、まずは君から話してくれるかな?」

「はい」

 彼女の声は緊張でやや震えていたが、話し始めるにつれ徐々に落ち着いてきた。大半はヨハンの知っている話だったが、ヨハンは向かいの席に座る彼女をじっと見つめながら話に耳を傾けていた。ヨハンが天井裏に彼女を引っ張り上げた段になると、彼女は長い黒髪をかき上げながらそっとヨハンのほうを見た。二人の目と目があった。

「彼はこう言ったのです。『通勤には不便だから今まで使ってこなかったが』って」

 そういうと、彼女はヨハンだけに分かるようにこっそり微笑んで見せた。

 リーナの話が終わるとヨハンがいくつか補足をした。たまたま死んだ内務人民保安部の男を見つけたこと、そこでいくつか物品を失敬したこと、工場で技師長補として働いていること、今頃自分は『人民の敵』として指名手配されているであろうこと。それから、リーナのほうを見てふと付け加えたことには、自分は独身で両親とも死んでおり親類に迷惑をかける心配はないということ。最後に、艦長以下この艦で働く人々の思想と信条によっては自分も助けになりたいということを話した。

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