かくれんぼー4
「もういーかい?」
30まで数えた瀧聲は、隠れたユウタに聞こえるように大きな声でたずねた。
しかし『もういいよ』という声は返ってこない。
――聞こえてないのかな……?
もう一度叫んでみる。
「もういーかい?」
それでも返事はなく、自身の声が虚しく響くだけである。
「……」
しばらく黙っていた瀧聲だったが、とうとうしびれを切らしたのか「もういーよ」と小声で呟くと目をあけ、屋敷のほうを振り返る。
だが――
「あれ、屋敷がない...?」
さっきまであったユウタの住む大きな屋敷は、跡形もなくなっていた。
かわりにそこにあるのは建物だったとおぼしき廃墟である。
――どういうことだ?
疑問に駆られた瀧聲は、木から離れると廃墟のほうへ足を進める。
蔦が覆いすっかり風化しているものの、廃墟のかたちと大きさからして、ユウタの屋敷と同じ建物のようである。
――さっきまでちゃんとした屋敷だったのに……。一体どうなっているんだ?
すっかりかくれんぼのことを忘れて、辺りを注意深く観察する瀧聲。
廃墟の荒れかたからして、ここ最近人間が立ち入った気配は全くない。
――おかしい……。ユウタはここにあった屋敷に住んでるんじゃなかったのか?
首を傾げると、今度は廃墟の周りをぐるりと回ってみる。
すると元は庭だったのであろう、少し開けた土地に出てきた。
いつの間にか霧雨が降り、草1本生えていないむき出しの地面が黒く染まる。
――霧雨に廃墟……何だか不気味だな。
そして瀧聲は庭の中央に、何か四角いものが建っていのを見つけた。
それに近づき、しゃがんで確かめてみる。
「これは……お墓?」
瀧聲が見つけたのは小さなお墓だった。
傍には何故か、ユウタの持っていたぬいぐるみと箱が置いてある。
「どうしてこんなところにユウタのものが……」
ぬいぐるみと箱に手を伸ばそうとするが、そこでピタッと動きが止まる。
――ユウタは『僕をちゃんと見つけられたらこの箱をあげる。』って言ってた。今目の前に箱があり、そしてお墓がある。まさか、そんな……。
ある考えに至った瀧聲は祈るような気持ちでお墓に刻まれた文字を見る。
そこにはかすれた文字で『ユウタ 享年7歳』と書かれていた。
「……」
しばらくお墓を見つめて立ち尽くす瀧聲。
その背中を冷たい霧雨が徐々に濡らしてゆく。
――今なら分かる。プリクラに写らなかったのは……あれは機械の故障なんかじゃなかったんだ。
そして何も言わずに黙ってお墓の傍に置かれていた箱に手を伸ばす。
ユウタにさんざん強く抱きしめられた箱は、プレゼントとは呼べないほどに大きく歪んでいた。
包みを丁寧にはがし、中を開ける。
そこにはいっていたのは、黒い十字の模様があしらわれたオレンジ色のヘッドフォンだった。
じっくりと眺めたあとそれを耳にはめてみる。
「……耳当てが欲しいか聞いてきたのは、こういうことだったんだな」
彼はそれが耳当てではなく、ヘッドフォンであるということをまだ知らない。
そしてユウタが耳当てと間違えて、ヘッドフォンを買ってきてしまったことも知らない。
傍に咲いていた一輪の花を摘むとお墓の前にそっと置く。
しゃがんでお墓を見つめていた瀧聲は、フッと微笑むと指を指して呟いた。
「ユウタ、見ーつけた」
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