長い夜ー2

「痛っ!」


コンクリートに放り出されたユウタはうめき声をあげた。

はっと顔をあげると、10人ほどの人間がこちらに迫ってくる。

彼らが何者なのかユウタにはよく分からないが、危害をくわえようとしているのは明らかだった。


「ご、ごめんなさいってば……!考え事してたの、わざとじゃないって……」


コンクリートに座り込んだまま、ぬいぐるみと買ったばかりの箱を抱えてじりじりと後ずさる。


「ぶつかった代償は大きいぜ?謝って済むような問題じゃないんだよねぇ」


男が穏やかな口調で返してくるが、目が笑っていない。

集団に囲まれる圧迫感と粘りつくような声が、ユウタを恐怖で縛り付ける。


「お、お財布が欲しいならあげるよ……。だからもう来ないで……!」


震える声と共に、取り出した財布を集団に向かって投げるユウタ。

空中でキャッチした男が、財布の中身を確認してニヤッと笑う。


「へぇ、お金あるんだね坊主。せっかくだからその箱の中身も頂戴しようかな?」


男の言葉にはっとして箱を見つめるユウタ。

そして、いやいやをするように箱とぬいぐるみを抱きしめる。


「こっこれはダメなんだ……絶対嫌……渡さない……!」


「あーあ、言うこと聞いてれば痛い思いをしなくて済んだのに……」


その言葉と共に別の男がユウタの前に立ち、拳を固める。

恐怖で縛られたユウタは逃げることもできない。

ただただ箱とぬいぐるみを抱きしめながら、己に向けられた拳を凝視する。


男がユウタに歪んだ笑みを浮かべた。


「おやすみなさい」


ユウタはきたるべき衝撃に備えてギュッと目をつぶる。





しかし衝撃よりも先にきたのは腕を掴まれる感触だった。


そのままぐいっと強く、しかし優しく抱きとめられる。

恐る恐るユウタが目をあけるとある人物がそこにいた。



「瀧聲兄ちゃん……!?」


殴られるより早くユウタを引っ張ったのは、紛れもなく瀧聲だった。

ユウタの言葉には答えず、彼を立たせると何事もなかったかのように、手を引っ張ってすたすた歩き出す。


しかし集団も黙ってはいなかった。

瀧聲とユウタを囲むように立ち進路を断つと、こちらに近づいてくる。


「ひっ……」


小さな悲鳴をあげたユウタを背でかばいながら、ここで初めて瀧聲が声を出した。



「……そこに立たれると邪魔なんだけど」


「あんた坊主の保護者さん?俺達、まだそいつに用があるから、帰られるわけにはいかないんだよねぇ」


そう言って目配せする男。


途端に、瀧聲の背後に立っていた別の男が殴りかかる。


「兄ちゃん、後ろ!」


しかしユウタが叫ぶより速く瀧聲が振り返り、男をかわしたあとその腹に強烈なキックを放つ。


「うっ……?」


パイプを殴ったような音と共に男が不思議そうに腹を押さえて崩れ落ちる。

あまりにも瀧聲の行動が速すぎて、自分の身に何が起きたのか分かっていないようだ。



「死角から殴るのは卑怯なんじゃない?」


ポケットに手を入れたまま男を見下ろす瀧聲。

集団がどよめき、堰を切ったように全員が一気に殴りかかってくる。


「何、今度は集団?面倒だなぁ……」


臆することなく気だるげに呟いた瀧聲は襲ってくる集団を全てかわしたあと、キックや手刀をくらわせてKOしていく。


蜃気楼のようにゆらゆらかわし、背後から音もなく忍び寄り攻撃を仕掛ける。



まるで映画のワンシーンのような瀧聲の戦いぶりに、ユウタはただ目を見張るしかなかった。

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