動き出す日ー1

「兄ちゃん!」


「うーんあと1時間……寝かせて……」


「それさっきも言ってたよ!もーっ兄ちゃんってば!」


あれから1か月――


瀧聲とユウタは再び行動を共にするようになった。

しかしユウタが打ち明け話をしてから、一つ大きく変わったことがある。

それは、瀧聲がなかなか動かなくなったこと。

以前はユウタに覚えた違和感を追及するために起きていたのだが、今ではその違和感の正体が分かったため、これまで通り昼間は寝るようになったのである。

もちろん、夜行性ではないユウタにとっては面白くない。


「今寝る時間じゃないよ!今日曇ってて天気悪いし、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうって!」


「塩と醤油……?うーん迷うからどっちもください……」


「ダメだこれ。瀧聲兄ちゃんは放っておくとすぐ寝ちゃうし起きないもんなぁ……」


とんちんかんなことを答える瀧聲に、やれやれと呆れるユウタ。

はたから見れば、ユウタのほうがよっぽど『兄ちゃん』に見える。



しかし行動を共にしてから1か月。

ユウタも無策で瀧聲を起こそうとしているわけではなかった。

手に持っていたビニール袋を掲げ、瀧聲の目の前でがさがさ振る。



「兄ちゃん、これなーんだ?」


その瞬間、あれほどまでに爆睡していた瀧聲が目を覚ます。


「肉まん……!」


「当たり~っ、はぁやっと起きてくれた……」


瀧聲に見せたのはよくコンビニで見かける肉まんだった。

ユウタはこの一か月で瀧聲の大好物が肉まんであり、肉まんを渡せば簡単に釣れることに気づいたのである。

肉まんを幸せそうに頬張る瀧聲にユウタが声をかける。


「兄ちゃん、今日はゲームセンターに行かない?僕行ったことないんだ」


「えー...まだ昼だよ?眠いし寝たい」


肉まんを食べながら面倒そうに呟く瀧聲。

普段から無気力気質ではあるが真っ昼間の彼は特に気力ゼロである。


「えーっじゃあ3時から行こうよ。それならゲームセンターに行く途中、おやつで何か買い食いできるかもしれないし」


「おやつ……買い食い……うん、それならいいよ」


「えへへやったぁ!じゃあ3時からね」


完全にユウタにコントロールされている瀧聲だった。

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