推理in喫茶店ー1

「……それで兄ちゃん、僕が嘘をついてるってどういうこと?」


雨宿りのため喫茶店にはいった二人は飲み物を注文するとテーブルについた。

店内には静かなオルゴールの曲が流れている。


「えっと……何の話?」


注文したホットミルクを飲みながらドーナツを食べている瀧聲。

相変わらず無表情だが、幸せそうなオーラが漂っている。


「何のってもう!僕が嘘をついてるって話!さっき兄ちゃん言ってたでしょ。」


ユウタが頬を膨らませて瀧聲を見る。


「あぁゴメン忘れてた」と言った瀧聲はドーナツから手を放すと、ユウタを正面から見据えた。


「まず結論から言うと……ユウタ、喧嘩して家出なんかしてないだろ」


「そんなことないよ喧嘩して家出したもん!じゃなきゃこんなところにいないよ」


テーブルから身を乗り出すようにして反論するユウタ。

それを手で制した瀧聲はホットミルクをすすると静かにカップをテーブルに置く。


「まぁ静かに……話を順に追っていこう。ユウタはどうして家出したんだっけ?」


「どうしてって父さん達と喧嘩して……」


ユウタの言葉に瀧聲が頷く。


「喧嘩して頭に血がのぼってつい家を飛び出してしまったってことだよね。つまり本当は家出する予定じゃなかった、合ってる?」


「うん、そうじゃなきゃ電車の中でどうしたらいいか分からなくなったりしないもん」


うんうんと頷く瀧聲。


「確かについ家出をしたならば昨日電車の中で途方に暮れていたのにも説明がつく。でも矛盾が出てくるんだよ」


瀧聲はテーブルの角に掛けてある濡れた傘を指さした。


「ユウタはどうして傘を持ってきたんだっけ?」


「天気予報で確認したからだよ。雨が降るって……」


ココアのカップを手で包みながらユウタが答える。


「そう、ここがおかしい。思わず家を飛び出してしまったのに傘を持っていくかな?」


「どういうこと?」


首を傾げるユウタに瀧聲が説明する。


「普通、感情にまかせた家出っていうのは何も持たずに家を飛び出してしまうものさ。とにかくその場から逃げたくて……それで後になって途方に暮れるパターンが多い。でも君はカッとなって飛び出したわりには妙に準備がいい」


テーブルに肘をついてユウタを見つめる瀧聲。

ユウタは視線を合わせられず、黙って俯いている。


「傘、そして財布。財布だってかなりの金額が入ってるだろ?じゃなきゃ二人分のお菓子をあんな大量には買えない。おまけに普段小学生がこんな金額を財布に入れてるとは考えられない――予め親の財布からとっていたなら説明はつくけどね」


再びカップに手を伸ばした瀧聲が言葉を続ける。


「突拍子もない家出だったのにまるで遠足のように準備がいい。だから僕はただの家出じゃない、ユウタが嘘をついてるんじゃないかって思ったのさ。僕が今まで感じていた違和感はこれだったんだ」


「……」


ユウタは何も答えず黙ったまま固まっている。


「まぁここまでは確証のない僕の推測。でも決定的なことが一つあるんだ」


指を1本伸ばした瀧聲は質問をする。


「ユウタ、僕が『嘘ついてるだろ』って言った時何て答えたっけ?」


「『家を出る前に天気予報を確認した』って……あ」


そこまで言ってユウタが口を押さえる。


「『家を出る前に』天気予報を確認したっておかしくないかな?思わず家を飛び出したのに天気予報を確認する時間はあったのかい?」


「……」


ユウタは黙って俯くと蚊の鳴くような声でゆっくりと言った。


「ごめん……なさい。兄ちゃんの言う通り喧嘩して家出……してない」


そしてユウタの目から涙がぼろぼろとこぼれる。

その様子を見た瀧聲は机の上にあったティッシュをとるとそっと差し出した。


「別に責めてるわけじゃないから。どうして嘘をついたのか訳を聞かせてくれないか?」


ティッシュを受け取ったユウタは涙をぬぐいながら頷いた。

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