探偵と少年ー2

――とは言ってもなぁ……。


電車の中で出会ってから翌朝、ユウタは瀧聲と一緒に行動するようになったのだが――




――僕にユウタがついて行くというより、僕がユウタについて行ってないか……?



正確には瀧聲がユウタに振り回されているのである。


初めて顔を合わせた時は言葉数も少なく人見知りな印象を受けたユウタだったが、今ではすっかり年相応にはしゃいで瀧聲を引きずっている。


――昼間だし寝ていたいんだけど……。


夜行性であるにも関わらず、こうして眠気をこらえてまでユウタに付き合う義理は瀧聲にない。

しかし瀧聲にはどうしても気になる点があった。


――どうしてだろう、分からないんだけど何か気になるんだよね……。


気になることがあれば睡眠を削ってでもとことん納得のいくまで追求する――それが瀧聲の性格だった。


公園のベンチに座ってのびを大きくする瀧聲。

ふと見ればユウタは店先でお菓子を買っている。

私立の小学校に通っているのか、しわ1つないパリッとした制服を着ているユウタ。

ぱっと見ると大人びた格好ではあるが、言動や人懐っこい笑顔は年相応で、制服がよりそのあどけなさを強調している。


財布を取り出してお札を渡したユウタは、ビニール袋を抱えると瀧聲のほうに向かって駆けてきた。


「兄ちゃん、お菓子買ったから食べようよ!」


「あぁ、ありがとう」


差し出されたペロペロキャンディを受け取った瀧聲は、それを口にくわえながらユウタの持つ袋を見る。


「それにしてもたくさん買ってきたね、多くない?」


「だって兄ちゃんがほとんど食べちゃうんだもん」


ぷぅっと頬を膨らませたユウタが言葉を続ける。


「さっきもコンビニでポテチとかチョコとかいろいろ買ったけど、気づいたら全部なくなってて……僕ポテチ1枚も食べれなかったんだよ?」


ユウタの訴えに瀧聲はそっぽを向いてキャンディをなめる。


「だからお菓子を全部2個ずつ買ってきた!これなら兄ちゃんに全部食べられないよね...もう全部食べちゃダメだからね!」


「分かった食べないよ……たぶん」


袋を抱きしめて睨むユウタにひらひら手を振って応じた瀧聲は、頬にぽつっと冷たい感触を覚えた。



「あれ……雨?」


空に手をかざしてみると雨がぽつぽつ当たる。

そしてあっという間に雨脚が強くなって地面が濡れ始めた 。


「あぁ降ってきちゃった……どっかに移動しないと」


「兄ちゃん、傘入る?」


ふと見るとベンチから立ったユウタが背伸びをして瀧聲を傘にいれようとしている。


「うーんユウタの背丈じゃ入らないでしょ?僕が傘を持つよ」


傘を受け取った瀧聲はベンチから立つとユウタを傘にいれた。


「それにしてもよく傘なんて持ってたね」


「えへへ用意がいいでしょ?ちゃんと天気予報で確認したんだ」


「確認……?」


ユウタの言葉を受けて呟く瀧聲。


「兄ちゃんどうしたの?具合でも悪いの?」


急に黙ってしまった瀧聲の顔を、下から心配そうにユウタが見上げる。

そんなユウタを黄色い瞳でじっと見つめた瀧聲は、思いがけない言葉を口にした。


「ユウタ、僕に嘘ついてるだろ」


「えっどういうこと?」


戸惑うユウタに瀧聲はぐっと顔を近づける。


「とぼけてもダメだよ。知ってる?嘘をつくと閻魔さんに連れていかれちゃうんだよ。」


普段と変わらない口調であるにも関わらず、無表情のせいか不思議と怖い瀧聲の言葉。


「ひっ」と一瞬悲鳴をあげたユウタだったが首を傾げる。


「ねぇ、それって連れていかれちゃうんじゃなくて舌を抜かれちゃうんじゃなかった?」


「あれ、そうだっけ?」


言われて瀧聲は首を捻ったが「まぁいいや」と頭を掻くと言葉を続けた。


「とにかく言いたかったのはユウタが嘘をついてるって話」


「だから嘘ついてないって!家を出る前に天気予報確認したもん!」


ユウタの言葉に瀧聲は首を横に振る。


「んー僕が言いたいのはそこじゃなくて……まぁこんな雨の中話をするのもなんだし場所を変えようか。お腹も空いたしさ」


遠くに見える喫茶店を指さして瀧聲が微笑んだ。

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