28.車が一台足りません

 ネルカモア国日本大使のリーメは大使館の私室から裏の駐車場を見下ろした。

 並んだ車の列に、ひとつポッカリ空きがある。

 ここ最近、車の止まらないそこはリーメが最も信頼する日本人職員の駐車スペースだ。

 彼に与えた特別な仕事にリーメは思いを馳せた。




 その頃。

 件の職員は、同じ仕事を与えられたもう一人の職員と共に駐車場に止めた車の中にいた。

 瞳の家から斜向かいのそこは彼女の家がよく見える。

 彼らに与えられた仕事は千也の護衛であった。

「千也さまは王族としての自覚がなさ過ぎる」

 助手席の呟きに運転席の男が息を吐く。

 昨日、千也は家から一歩も外に出なかった。

 一昨日は近所のコンビニへスナック菓子を買いに行ったのが唯一の外出。

 その前の日はレンタルビデオ店に出かけ、ごっそりビデオを借りてきた。

 そのまた前の日は外出なし。


「千也さまは何しに日本に来たんだろうな」


 運転席の呟きに返事は返らなかった。

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