23.無の境地はどこにある
瞳が会社に行っている昼間、千也は暇である。
なので、料理をしてみることにした。初めての経験である。
「ただいま」
夕方、瞳が帰宅すると千也は居間で座禅を組んでいた。
「千也さん、どうしたの?」
彼のそばに紙が置いてある。
『無の境地を極めたいと思います。そっとしておいてください』
瞳はふと、隣のキッチンに視線を移した。
床に飛び散る謎の油。
焦げ目のついたガスまわり。
爆発跡を生々しく残す電子レンジ。
流しに積み上げられたドロドロの食器。
瞳はじろりと視線を戻した。
千也が無の境地に達するのは、もうまもなくである。
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