10.ぬしは逃げた

 電話が鳴った。


「はい、沢野です」

『瞳さん? 初めまして、一也です。兄がお世話になっています』

 記憶の糸をたぐり寄せる。

「ああ、千也さんの弟さんでネモカルア王国の王様の」

『はい。日本語は不勉強なものでお聞き苦しいかもしれませんがご容赦ください』

「いいえ、千也さんより上手いぐらいです。千也さんに代わりましょうか?」

『いえ、今日は瞳さんの声をお聞きしたくて電話をさせていただきました。ご迷惑でしょうが兄のこと、もうしばらくよろしくお願いいたします』

「ご迷惑だなんてそんな」

 瞳は微笑んだ。

「こちらとしては払うものさえ払っていただければ何をしていただいても結構です」


『……千也兄さんに代わっていただけますか?』



「え? 羽目を外すな? そんなことわかってるって。お前、瞳と話したかったんだろ?何でオレに説教してんだよ。国費が食いつぶされる? おーい、瞳、こいつに何言ったんだ?」

 ソファに座り雑誌を読みながら瞳は肩をすくめた。

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