3.パラボラアンテナ危機一髪

「ねえねえ瞳ちゃん」

 仕事に行こうと家を出たところで、瞳は隣の家のおばさんに捕まった。

「瞳ちゃんの家にいる男の子って彼氏?」

 千也が家に来たのはついこの間の話。

 懐を大きく広げてありとあらゆる情報を受信する、このおばさんのパラボラアンテナのような情報収集能力には、いっそさえ感心する。

 しかし。

 いいえ違います。あの男は某国の王様の双子の兄で、日本で下宿したいとか言って私の家に転がり込んでるんです。

 そんなこと言ったって信じてもらえない。

 瞳はちらりと時計を見た。そろそろ行かないとまずい。

 このおばさんは昔から話が長い。

 仕方がない。時間がもったいないし。

「ええ、彼氏です」

 にこやかな笑顔でそう答えると、おばさんは嬉しそうに何度も頷いた。

「じゃあ、仕事があるのでこれで失礼します」

 仕事には何とかギリギリで間に合った。


「瞳、何かオレご近所の奥様方に、ニコニコされたり、指差されたり、ひそひそ噂されたりするんだけど」

「気のせいよ」


 『瞳ちゃんついに同棲』 『彼氏はイケメンだけどヒモ』

 ご近所に広がった噂を二人はまだ知らない。

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