第46話 暗い朝陽

 

 次の日の朝、施錠を外され、点呼を待たず広間に飛び出すと、坊ちゃんはそこで、同じ姿のまま死んでいた。


 最悪の事態だ。だけど予想はできてた。

 手足を放って倒れた体勢から、せめて手足を整えようとするが、思うようにいかない。

 坊ちゃんの体はもうカチコチに突っ張っていた。巨大なダンベルのようだった。


「え~……マジかよ~……」

「おいおい……」


 室長たちはさして驚くでもなく、白々しく今はじめて知ったような顔をしている。

 当然だ。こいつらは知ってたんだから。あのままだと危険だって知ってて放置した。



………………



 ややしばらくして、やって来たのは救急隊員じゃなく警官だった。

 園長と指導員たちが状況説明をしながら、刑事たちが広間へ入ってくる。


「入所者同士でいろいろあったみたいで」

「ふざけてたか……もしくは何か、ケンカがあったのか」


 そんな説明をし始めた。こいつら、この期に及んで俺たちのせいかよ!


「共同生活をするうえでは避けられないことなんですが……我々の監督不足な部分は多々あります。でも、パートさんもいない時間のことで、どうしようもない部分が……」


 どうしようもないかどうかは、ここの指導員たちが決めることではないのだが、こいつらはそう言い訳をした。


「ここの入所者は、常識のない子が多くてですね。我々も手が回らないんですよ」


 こいつらは『入所者たちがふざけて遊んでるうちの事故』『寝たふりをしてると思って、起こさなかった』というストーリーを考えてるらしい。それで誤魔化そうとしてる。


「おい、刑事さん!事故じゃない!こいつらが、こいつらがやったんだ!こいつらが殺した!!」


 俺は刑事のところへ駆け寄った。


「えっ!?君、どういうことだい?」


「ここは暴力施設で、昨日のも殺人なんだ!こいつらのせいなんだよ!」


「……ハハハ、また始まったよ。おい誰か、こいつを連れてけ!うるさくて敵わなねぇ!」


 新羽が困り顔で、俺を嘲笑した。そして室長たちに俺を連れて行くよう、命令を飛ばす。


「なんだよ?おい、離せよ!」


 何度目だ。俺は捕まった。ロビーの奥へ連れて行かれそうになる。

 んぎぎぎぎ……!

 鉄柵にしがみつき、抵抗する。


「えっと、どういうことです?あの彼が言ったことは……」


 そうだ、刑事さん。俺の証言を聞いてくれ!


「いえいえ、違うんですよ。当施設では、彼のような精神を病んでいる生徒も受け入れてましてね?今日のようなことがあってストレスがかかると、妄想で妙なことを口走るんですよ。俺は命を狙われてる?とかの」


「なるほど、そうでしたか。それはご苦労様です」


 あ?なんだって?俺が精神病だと?

 俺の言ってることが妄想?だから聞く必要は無いと?


「違うんだ!!俺は正常だ、信じてくれ!!」


 そうして叫んだのも虚しく、俺は鉄格子の独房に入れられた。

 刑事さんが来てる現場とは別棟だから、どんなに喚こうが俺の声は届かない。


 それから警察は一通り現場検証をして、すぐに去っていった。

 午前をだいぶ残して終わったところを見るに、『事件性なし』と判断されたようだった。


 入所者へ事情聴取もしただろう。だが入所者を代表したのは室長たち。

 奴らは口裏を合わせ、みんな嘘の証言をしたようだ。あくまで事故という体裁で突き通す、と。

 だが本当は違う。あいつらが殺した。込み入った事情があるが、あいつらが殺したことで間違いない。

 だがその証拠もない。手を上げた証拠があるわけでもない。


 入所者全員に聞けば証言が取れるだろうが、警察は行ってしまった。

 だからもう訴え出る方法がない。

 本当のことを言うにしても、まずはこの施設から出ないといけない。

 とにかくこの施設から……

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