第41話 勝手にしやがれ part2
俺たちは食事時も奪い合うことをやめ、均等に分けることに決めていた。
みんな同タイミングでお代わりし、同じ量だけ等分する。あらかじめ用意されている室長の食事のぶん、目減りした食事を奪い合わずに分ける。それが俺たちの決めたこと。
同時に茶碗をカラにして、同時に同じ量のおかわりをする。それが俺たちのルール。
「………………!」
朝食を終え、三人で顔を見合わせた。
たしかに食事の量自体はわびしい。満腹になどなるわけがない。
しかし奪い合わないこと、協調して分け合うことは、予想以上に気持ちがいい。
不平不満がなく、遺恨を残さないことは気が楽だ。この安心感、なにものにも代えがたい。
それは魁斗も坊ちゃんも同じようで、食事を奪いあっていた時とは違って、屈託のない笑顔を見せてくれている。満腹以上の充実感があるんだ。
「そうだ、もう理不尽なルールには従わない。従わないでいいんだ」
みんなと自分に言い聞かせるように、俺はこのフレーズを繰り返す。
「なんか優等生になったみたいで、気持ちわりぃな」
こう言ったのは、元ヤンキー・小窪魁斗くんの談。なんだよ、照れてんのか?
「いや。この施設じゃ俺たちは落ちこぼれだよ。俺たちは仲間同士で争わないし、理不尽なルールに従わない……つまり言うこと聞かない劣等生なんだから」
「そりゃいいな!そうか、俺たちはここでも落ちこぼれなのか!」
ハハハと笑い合う。和気あいあいとした食事風景だ。
そんな俺たちを見て、博巳は何とも言えない、もんにょりとした顔をしている。俺たちがギスギスしないのをよく思ってないって顔だ。
だけど俺たちはもうたくさん。メシ争奪戦なんかに加わりたくない。もう仲間同士で憎しみあいたくないから。
それからは、このスタンスが俺たち三号室のやり方になった。
俺たちは室長でもなんでもないけど、朝の『お清め』には付き合わない。メシ争奪戦にも加わらない。そしてチクらないから、チクられない。
ただ勉強をして、農作業して、みんなで食糧を分け合って寝るだけだ。争わないし、いじめにも加わらない。
たとえ指導員や室長の言うことでも、明らかにおかしいことには従わない。
暴力で理不尽を強要されたら、本気で抵抗する。それが人間として当然の態度だ。今までできなかったことが悔しいくらいだ。
まぁここまでやれるのも、俺が例外的に自由を認められてるからでもある。よっぽどじゃない限り殴られない、って確証があるから。
そして特別あつかいを認められたのは、俺が園長に振るった暴力のせいだ。
基本的に暴力はいけないと思う。だけど力でもって対抗しないと分からないほど頭のおかしいやつは確実に存在する。そもそも先に実力行使してきたのは連中のほうだし。
「あ、あの……戸津床くん」
ビクビクしなくてもよくなった広間で、ゆったりとそんなことを考えていたら、急に声をかけられた。
声の主は隣の二号室のやつだった。まだ10代半ばの、子供みたいなチビガリ。室長の今場にイジメられてばかりの。
「お清めの時のあれ、すごかったよ!それで、どうやってスルーできたの?」
羨ましそうに聞いてくる。俺が言いくるめた時のことを。
「ああ、あれはだな……」
…
……
………
俺は特別に朝のお清めに参加しくてもいい理由を教えた。そして他の連中も参加しない理由、園長から許可を引き出せたことなどを、簡潔に説明した。
「だから、俺たちと同じように許可を貰えれば、他のやつも大丈夫だ」
そして、俺はこいつも引き込むよう、勧誘した。
「じゃあ園長から、お清めしなくても大丈夫、って引き出せればいいの?」
「そうそう」
「何か言われたら、戸津床くんの例を上げればいい、ってことだね」
「ああ、そうすれば大丈夫。何かあったら俺がケツモチするから」
こいつを安心させるように言葉を掛けていく。優しくしながらも力強く、女の子を相手にするかのように。
俺はもともと、こんな子供みたいなやつまで、朝のお清めをやらされるのは気の毒だと思ってた。だから願ったり叶ったりだ。
「俺たちの側についていれば、園長は絶対スルーする。もう殴られることもなくなる」
「お清めだけじゃなく、殴られるのも?」
「ああ。俺たち三号室のことは指導員もスルーしてるだろ?」
「あっ、そっかぁ。すごいなぁ、殴られないんだぁ」
俺たちの側に立てば、きっと殴られない。
「おい、三号室の奴らといれば殴られないってよ!」
「マジかよ。あいつらだけじゃなく、俺も大丈夫なのか?」
そのやり取りを見聞きしていたみんなが、俺たちに興味を持ち始めた。
このクソみたいな施設でも、俺たちと行動を共にすれば、何かが変わると期待してる目をしている。
「ああ。俺も出来るかぎり頑張るよ……ただし条件がある」
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