第27話 めぐりあい・施設
「おいクワマン!」
「今日も根性鍛えっからな?ありがたく思えよ?」
前は気まぐれで桑名海唯羽を手伝ったが、それ以上は何もない。彼女は相変わらずいじめられてる。同室の女入所者たち、特に室長のアラフォーおばさんに絡まれてるのだ。
「オラ!さっさと脱げよブス!!」
今日の自由時間も、広間で着るものを脱がされている。誰も見て見ぬふり。
その場に居合わせたみんなは、気になってチラチラ見てるくせに、彼女のためには何をするわけでもない。ただニヤニヤしてるだけだ。俺も同じようなもんだけど。
こういう時、博巳は彼女のことをジロジロ見てたかと思ったら、おもむろにトイレに駆け込む。そして数分後、スッキリとした顔で出てくる。そして夜になれば布団でモゾモゾ。
明らかにいじめられる彼女を見て、もよおしてる。割とマジでキショイ。
「おら、隠すな!キョドってんじゃねーよ」
「ううぅ……」
「テメー隠すほど乳ねーだろ?」
女子グループは今日もえげつない。というかどんどんエスカレートしている。
わざと広間の、男たちの目につくところでやるんだから、明らかに意識してる。彼女を性的に貶めるためにやってる。
「クワマン。お前さ、男子にヤラせてやれよ」
「「「!!!??」」」
視界の隅でチラチラ様子をうかがっていた男たちが一斉に、目の色を変えてそちらを振り返った。
その様子を見て、笑い転げる女たち。
「ギャハハハ!男子、必死すぎ」
「あ~マジウケる」
「ま、いくらなんでも、こんな根暗陰キャブスは御免だろうから?ちょっとくらいならアタシが見せてやってもいいけど?」
いや、お前は別に……
唐突なおばさん室長のサービス宣言に、その場にいた男性全員の心の声が聞こえたような気がした。
「じゃあさ、クワマン。お前、今度キュウリ入れてみろよ」
「へっ?」
「お前は新鮮なキュウリと結婚するんだよ。固くて太いやつとな」
キ、キュウリ? 何をするつもりだ?
さすがにやりすぎだろ、こいつら。
「おい、いい加減にしろ」
俺はついつい声を上げてしまった。広間の視線が俺に集まる。はい、悪目立ち。
でも、さすがに度を越してる。このまま放置してたら、もっとエスカレートする。
「何コイツ?ウザっ」
「こいつあれだろ?三号室のあれ」
「ウチらは、こいつにルールを教えてるだけなんですけど?」
室長のアラフォーおばさんたちは、見下したような、小馬鹿にするような視線でジロジロ見てくる。
『ウチら、お前もボコれるよ』っていう視線だ。共学の公立校でよくある。
数の力だろうか、それとも年の功だろうか、威圧感がパネェ。だけど俺は引き下がらない。
「彼女はもうここのルールが分かってるし、反抗してない。ルールを教えるとしたら、もういじめる必要は無いだろ」
「はい、正義マン来ました~」
「何、お前?コイツとヤリたいの?だったらそう言えよバカチンコ」
「ヒャハハハ!チンコだって!チンコ!」
女たちは下品に茶化してくる。
ムカつくとか通り越して、呆れるしかない。
こいつらだって指導員にいじめられる側なのに、どうしてこんな愚かなことができるんだ?このクズどもは。
もう相手にするのも馬鹿馬鹿しい。だから俺は反論するでもなく、視線でロビーの向こうの指導員室を指し示した。
その途端、女たちの顔色が変わる。さすがに指導員は恐いのだろう。
「チッ、行くよ!あー、つまんね」
女たちは桑名海唯羽を残し、引き上げていった。
無言だが、効果はあった。俺のチクり次第では、あいつらが罰を受けかねないから当然だ。
そして桑名海唯羽は解放され、全裸で広間に取り残された。
「……あっ」
呆然としてた彼女は俺に深く会釈し、そそくさと自室へと引き返していった。あらわになった胸と股間を隠しながら。
俺はその尻を見送った。
「お前、思い切ったことするな」
「――――すごい」
一連の流れを見てた魁斗と坊ちゃんが、俺のところへ来てそう言う。
自分でもけっこう思い切ったことをしたと思う。一触即発の状態から緊張が解けると、なんかクラクラした。
そんな俺たちをよそに、博巳は困惑してる。
それもそうだ。室長という立場上、いじめは肯定しなきゃいけないから、ヤツからすると微妙なところだもんな。
それにしても緊張した。
その場を離れてもずっと心臓がドキドキしていた。
それから夜になっても、桑名海唯羽のことがずっと頭を占めていた。
今日のあれは、確実に彼女の助けになったはず。俺は間違いなく、彼女の役に立ってる。
そう考えると喉元がキューッと締まり、自然とにやけてしまう。
今、もしかして嬉しいのか?彼女を助けられて?
殴られる彼女を見て、愉悦を感じていた俺だぞ?ビビって失禁したところに興奮したし、髪を切られてるのを見て勃起した。こんな最低な人間なんだぞ?
そもそもが、人の役に立って嬉しかったことなど無い俺だ。
学生時代から奉仕活動やボランティアで、さんざん人の役に立つことを強制されてきた。
しかし「本当はこんなことしたくないんだ」という、モヤモヤとした気持ちがつのるばかりで、なにひとつ達成感は無かった。
ここでの労働も『奉仕活動』の名目だけど、なんの感慨もない。人の役に立つのなんて、嬉しくもなんともないはずなのに……なんだこの高揚感は?
まだ体が熱い。耳たぶが火照ってる。
これが嬉しいって気持ちなら、俺はまた彼女の役に立ちたいと思う。
存外に気分が良いものだ。強制されるんじゃない、本当の人助けってのは。
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