第8話 お前らが、仲間?
これまでのあらすじ:拉致られて殴られて丸坊主にされました。
「………………」
俺はそれから終始無言。
いろんなことがありすぎて、ストレスがマッハ。
脳の処理が追いつかない。
胃が痛い。
頭がグラグラする。
倒れそう。
泣きそう。
吐きそう。
下痢しそう。
さっきのガリガリの三人の坊主頭に連れてかれた先は、十畳ほどの部屋。布団が四つ畳んであるとこを見ると四人部屋。あの三人と俺で四人ってか?
「……最悪だ」
メチャクチャにされた後の俺は、うなだれるしかできなかった。
「この三号室が、これから君の暮らす場所だよ」
殺風景な四人部屋。棚と布団以外は何もない、刑務所のような部屋だ。
「僕は大岡博巳よろしく」
卑屈そうなチビハゲはそう名乗った。
「俺は小窪魁斗だ」
「――――ぼ、坊満漢――よろしぐ!」
あとは目付きの悪いハゲに、うすらデカいハゲ。ハゲ入道たちの集会所。僧院かよ。
しかしまぁ間違っていない。こいつらはある種の修行僧みたいなもんだ。施設の理念を聞くかぎり。
そして俺もその僧の一人。今しがた刈られたばかりなので、むしろ他のやつよりハゲ度は高いとも言える。
「……なにニヤニヤしてんだよ。俺がされたことを笑ってるのか?」
こいつら笑ってる。俺の略歴が晒され、脱がされて屈辱を受けてるところを全て見てたんだ。そんなことされた奴、俺だってまっすぐ見れない。
「いやいや、みんなあんなものだよ。この『かがやきの国』じゃ」
「俺たちもやられたしな。むしろお前はツッパったほうだ」
「――――お、俺もやられた!」
こいつらはニコニコしながら話しかけてくる。何が楽しいんだよ。
それから博巳と名乗った奴に、ここでの生活を説明される。
「ここでは朝六時に起きて、勉強する。午後からはスポーツと農作業をするんだ」
ああ、壁のスケジュール表みたいのに書いてあったな。どうでもいいけど。
「夜は布団を敷いて寝て、起床時間には布団をたたむ。トイレは共同で、廊下の突き当り。風呂は週に二回」
「……知らねぇよ」
そっとしておいてくれ。俺はこんなとこに入るような人間じゃない。だから脱出するアイディアを練らなきゃいけない。こいつらと話してる場合じゃない。
「いいか?ここにはルールがあるからな?きちんと言うこと聞いとけよ?」
魁斗という男がそう言う。歳は二十歳前後だろうか、ブルドッグのような潰れた顔をした、目の細い男だ。口調や態度が、いかにもヤンキーでした、って感じの。
部屋の前のネームプレートには『小窪魁斗』と書かれてた。名前の二文字に『斗』が2つも入ってるところがすでにバカっぽい。そんな奴に注意されると、かなりイラッとする。
「どうでもいい、俺には関係ないし」
「おい。お前、まだわかってねぇみたいだけど、あんまり派手なことするんじゃねーぞ?」
「あっそ。でも俺は帰るから」
「お前、親に見捨てられたんだろ?受け入れろって」
「だから違うんだって!」
俺はこんなの納得してない。
更生施設だかなんだか知らないけど、聞かされてもないし、同意もしてない。
「まぁまぁ、やめなって。でも、ルールを守らないといけないのは本当だ」
「ここのルールは連帯責任だからな。お前がやらかすと、俺たちまで罰を受けるんだよ」
「――――みんな、いっしょじゃないと、ダメ」
ハァ?連帯責任?
だから出過ぎたことするな、ってか?
「まず、ここの指導員たちは“先生”と呼べ。そして先生方には逆らわない。それだけは守れ」
はいはい。先生、先生、先生ね。
ヤンキーみたいな『なり』してる割には、ずいぶん従順じゃないか。
ニートの俺のほうがよっぽど気合入ってるんだが?恥ずかしくねーのかよ。フフン。
「どうでもいいわ、便所行ってくる」
途中のコンビニでトイレに入ったけど、緊張で思うように用が足せず、慢性的な尿意を感じていた俺は、トイレへ行くため立ち上がった。
各部屋が並ぶ渡り廊下。その突き当りのトイレに行く。当然のように共同トイレだ。
古い建物特有の染み付いた臭気に、むせそうになりながら見渡すと、なぜか個室のドアが低い。上から中が覗けるほどだ。そして、足元も大きく開いている。これじゃ普通に外から見えてしまう。
なんだこれ?と、疑問に思いながら用を足した。
「便所、見たか?」
トイレから戻った俺に、魁斗が嬉しそうに尋ねてくる。
「ああ。あの個室か?」
きっとあの個室のことだろう。
さっきはちょっとイラッとしたけど、普通に話に乗っかる。別にすっとぼける必要もないし、あの妙な個室は俺も気になる。
「僕たちが来るより前の話なんだけど、あのトイレで自殺しようとした人がいたらしいんだ。だから自殺防止に、中が見えるようにしてあるって話だよ。よく考えられてるよね」
博巳が横からそう説明した。平然と。
魁斗は「な?やべーよな?」とか言って喜んでる。きっと自分も驚いたことを、俺と共有したいのだろう。
いやいや。みんな普通に話してるけど、それって自殺者が出るような場所ってことだぞ?
それをおもしろ話みたいに話すとか、こいつらもどこかおかしい。感覚が麻痺してる。
「俺は……すぐ帰る。すぐに帰るから」
「へへへ、お前のその元気、一週間もつかな?」
こんなことに長居はできない。
明日、あの指導員連中にしっかり話そう。
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