5.約束されたエンディング
ぽつり、と水滴が頬を濡らす。
ついに雨が降り出してしまったようだ。
その一滴から雨は堰を切ったように降り始めた。
グラウンドの活気ある声は動揺と少しの歓喜の声に変わり、その声は水と泥の跳ねる音とともに遠ざかっていく。
「……真の奴、今日はもう部活終わりかな?」
「だと思うよ〜、雨が酷くなる前に帰れて良かったねぇ」
僕達も急いで校舎の中へ入り、少しだけ濡れてしまった服を拭いていた。
どことなく漂う気まずさから、僕は執拗に水滴を拭う。
「……別にね、返事だとかそんなのを期待してる訳じゃないんだよ? けどさ、なんか今言葉にしとかないと後悔しちゃうかなーってそんな感じがしただけなの」
そんな空気を感じ取ってか、彩花がわざとらしく明るい声でそう言った。
そんな彩花の様子すらよく分からないほど、僕は今、確かに動揺している。
いつも通りに返事をすればいいはずなのに、上手く言葉が出てこない。
そんな僕らの様子を知ってか知らずか、やっと来たもう一人の幼馴染の呑気な声が廊下に響き渡る。
「部活無くなっちゃってさ、物足りねえー! まあ今日はしゃーねーから諦めて帰るわ!」
「本当に走るの好きだよねぇ、でも今日は帰ろ!」
校舎から出て、傘を開く。
ばらばらな色の傘が三つ、仲良く並んだ。
「ねぇ聞いてよ〜、今日ね、英語の課題をちゃんと提出したの」
「うわ、珍しい」
「珍しくない! けどね、先生も言うんだよね、本堂が課題出すとか今日は雨かって! 酷いよねー!」
「それは先生が正しいな」
「私の味方はいないのかーっ!」
「実際に雨降ったしな……あ、じゃあ今日部活が無くなったのって彩花が宿題出したからか? 彩花、今後課題は出すな」
「陸上バカは黙って! 絶対次も出してやるんだから!」
「二人とも、僕を挟んで喧嘩をするのはやめてくれないかな?」
相変わらず騒がしい二人に、感じていた気まずさも忘れて僕はため息混じりにそう声をかける。
いつもの日常だ。
やっと戻ってきた、そんな感じがした。
その時だった。何かに刺されたような痛みが頭を襲う。
それと同時に、眩しい光が僕達を覆い——。
「……え?」
轟音とともに、赤い傘が灰色の空に舞う。
赤い傘は彩花のお気に入りの傘だ。
今日、差していた、傘だ。
「あ、彩花……」
真の声が聞こえる。そして、僕は思い出していた。
今朝の夢を。授業中に見た、あの夢を。
僕の思考に呼応するようにして、頭痛の激しさが増していく。
周りの音も遠ざかって、震える手から傘が滑り落ちる。
アスファルトが濡れていくのを見ながら、僕の意識は落ちていった。
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