第18話【美少女、遂に美少女宇宙人の学費を取り戻す(?)】(二人は金を取り戻した)

 帰れるけど、そうだけど——待ちなさいっわたしっ!

 棚の上のネコたちを降ろさないと!


「おかしいです!」

 偉そうに『教育がどーとか』理想を言ったのにネコたちで買収されるのはおかしい。そう思ったのは真実だ。だからおかしいものにおかしいと言った。

(なにがおかしいのであ〜る?)美少女学園長が訊き返してくる。

「ネコたちを置いていくだけでどうしてロインの学費の問題が解決するの? これってネコを使った賄賂じゃないの?」

(ワタシは賄賂など受けん。ロインという生徒の持つ資質が学費の問題の解決に繋がるのであ〜る)

 はあ?

 言われた意味が解らなかった。ネコを誘拐した挙げ句、わたしまで誘拐し、その目的はといえばネコたちを職員室に解き放った混乱に乗じ終わってしまったテスト答案の改ざん。

 動機は永遠の定番の『カネに困ってやりました』。

 どう考えてもろくでもない『資質』しか持ち合わせていない。

 そんなことを考えていると、

(類い希なるコミュニケーション能力)、と美少女学園長のひと言。

「はい?」と当然語尾が上がらざるを得ない。

(宇宙人とコミュニケーションをとり宇宙人を連れてくる。こんな途方もないことをやらかす生徒を見たのは初めてであ〜る)

「『宇宙人』て。ひょっとして、わたし?」わたしは自分自身を指差す。

(ひょっとしなくてもキミであ〜る)、と肯く美少女学園長。

 その時だ。

(『ふたばどーり・みさ』さん、お願いっ)とロインの声が脳に大きく響きそのまた直後、僅かの間髪も入れず二の句が飛んで来た。

(そのネコって生き物たち、ここに置いてって!)

 なんですってえ! ろいん〜っ、裏切ったなぁ〜っ!


 宇宙人どもに組まれた! 謀られた! 心配して損した! わたしはこれでけっこう怒りっぽくないと自分では思っているけど怒る時は怒る。


「なんでわたしがあなたの希望をきいてあげる必要があるのかしら?」

(え、と……相棒だから!)


 あいぼう?


「でもそこのあなたは現状わたしを残したまま逃げ隠れてますけど」と、極力優し〜い声で言ってあげた。

(……もしかして、怒ってます?)、とロインの声。

 わたしの怒りなんて解らない人も多いのだけれど宇宙人のくせにロインには通じたみたい。そこのところは少しは見所はあるよね。


「ええ、怒ってるから」と、ハッキリと意思表示をしてあげた。

(やっぱり?)

「いい加減わたしの前に姿を現しなさい!」そう言うといつの間にか少し離れた所にロインが立っていた。

 わたしに言われてようやく観念して出てきたといった風。しかし顔には安堵の色というのかどことなくニヤけている風。要するにしまりが無い。

 留年でもう一年同じ学年をやり直さなければならないようだけど少なくともロインが気にしているのは専ら学費の問題だ。お金の工面がつけばそれ以外は問題は無いのだろう。

 ロインが姿を現したからだろうか美少女学園長が本題を切り出してきた。


(ロインくん、キミにおカネを貸そう)


 はて、と少し疑問が湧いた。お金に困っている人にお金を貸すのはいいことなのだろうか? 悪いことなのだろうか?


「ロイン、お金貸すって言ってるよ」わたしはそう振った。

(う……嬉しくない)

 やっぱりか。


「解決しないって言ってるよ」わたしは美少女学園長にそう言ってあげていた。

(解決しないとキミの気が済まぬか?)、そう返事が戻ってきた。

 いや、気が済むとか……

(ずいぶん優しいのう)

 え、わたし優しいのかなぁ……

 ひょっとして学園長がカネを貸すというのが悪いのかな? まさか学園長とは仮の姿、その正体は高利貸し、とか?


「やっぱりまともなトコから借りるべきでヘンなところから借りちゃいけないと思うんです」わたしは言った。

(『ヘンなところ』とはどこのつもりで言ってるのであ〜るか?)と美少女学園長。

「いっ?」

(どこのつもりであ〜るか?)

 しつこいな〜。

「もちろん『貸す』って言った人ですよ」

(ほー、であ〜るか)

「貸さないんですか?」とわたしは訊く。

 美少女学園長は首を振りながら、

(ワタシが貸すわけではないのであ〜る。ワタシが推薦状を書けば特別な能力がある生徒だと認められるのであ〜る。故に『特別な奨学金』の給付を受けることができるのであ〜る)、と言ってきた。

 これはつまりヤミ金的ななにかじゃないってこと?

「特別っていうと、『給付型奨学金』ってヤツですか?」とわたしは訊いた。近頃そういうニーズについてのニュースを聞いてたし。

(なにを甘いこと言っとる。『給付』などしやあせん。特別な利子、即ち0パーセントで貸してくれるのであ〜る。しかも『支払期限』が無いのであ〜る。借金取りに『必要な家財道具』を差し押さえられる心配は無いのであ〜る)

「でも『支払期限』が無くても……結局タダじゃないのね……」

(当たり前であ〜る。なにを言っとる宇宙人娘。タダでないから人は真摯に勉学に取り組むのであ〜る。タダのものにありがたみを感じる者はおらん)、美少女学園長は思いっきりに言い切った。

 世界はそうそう優しく都合良くはないってことか……まあ確かに『タダ』のものって人から蔑ろにされるかも……宇宙人も地球人も日本人も本質は同じかもなぁ。あれ、そういえば……

「もし返済しないまま死んじゃったりしたらどうなるの?」

(『ふたばどーり・みさ』さんっなに言ってんですかっ!?)とロインの声。しかし美少女学園長は律儀に(?)わたしの問いに答えてくれた。

(当然負債は遺産相続人に引き継がれるのであ〜る)と。

 そこでまたも疑問が湧いてきた。

「遺産相続人がいなかったら?」

(その時は『損金』として処理されるのであ〜る)


 つまりこれって……ある意味給付型? まあ一生貧乏を条件に給付されるってカンジだけど……

(このワタシが推薦状を書けばカネは確実に工面できる、さてどうするの?)

 これは一応、美少女学園長の親切と言っていいのだろうか? 

 いや、違う違うっ!

 サーバルキャットが『べしべしべしべしっ』と毒蛇と戦っていたら毒蛇には悪いけどサーバルキャットの方を応援してしまうのがわたしだ。なのに……


「あのっ、学園長さん」

(なんであ〜るか?)

「やっぱりこのネコたちをここに置いて帰るわけには……」

(貸すだけで良いのであ〜る)

「え?」

(奨学金は貸すモノであ〜る。だからこの生き物たちも貸してくれるだけで良いのであ〜る)

「ネコたちは返してくれるんですか!?」

(当然であ〜る。奨学金の給付は一年分。一年更新だからネコも一年間貸してくれれば良い。もちろんキミの星の一年とこの星の一年という時間は同じ長さではないがほどほどに同じと言っていいのであ〜るからして)

「というと……」

(こちらの星の一年は『キミの時間を基準に三十日ほど短い』というわけであ〜る)

 つまり実質十一ヶ月間、ネコたちをこの星に残していくのか……

 『でもそれならいいんじゃない?』わたしの声がわたしの心の中に囁いた。

 わたしはその声に誘われるまま、

「良かったねーロイン。お金の問題、なんとかなったみたい」そう言っていた。もうそっちの方向へとわたしは踏み出していた。

(それって貸し付けを受けただけじゃないっ!)とロインから戻ってきた。

「だけど無利子なんだから時間の方の節約にはなる、んじゃない?」

(『ふたばどーり・みさ』さんの言ってる意味が解らないっ!)


(偉いっ!)と唐突に響くその声は美少女学園長。(宇宙人娘っよく言った。キミは宇宙人にしては本質を見抜いておる。無利子なら借金の額は抑えられる。借金の額は多いほど返すのに時間が掛かり少なければより短くなる。これは当然の摂理なのであ〜る)


(『貸す』んじゃお金が入っても好きなことに使えないのに……)とロインの愚痴が聞こえてきたが敢えてそこは無視しよう。学資こそが重大問題なのだ。


 とにかくどうやらこれでロインの学費の問題はとりあえず解決し、わたしは地球へ日本へと帰ることができる。ネコたちに十一ヶ月間の我慢を強いて……

(その代わり——)、と唐突に美少女学園長が話しかけてきた。思わずびくっと肩が動く。

「その代わりがあるの?」わたしは身構える。

(増えた分については『その限りではない』ということでどうであ〜るか?)

「あ……」


 ……なるほど。

 確かにネコって増えるから、増えたネコたちについては自分のネコにしようって魂胆か……

 とは言え一匹一匹それぞれを隔離でもしない限りネコの数が増えてしまうのは確実で、その増えた分もそれを地球へ、日本へ連れてったら、わたしが野良ネコを増やしたことになる。野良ネコを餌づけするのも問題だけど野良ネコを増やすのはもっと悪い……昨今のネコの多頭飼育崩壊は決して看過できない社会問題になってる。

 ネコって確か……一年で三回は出産できるはず。

 一回の出産でだいたい四匹から六匹生まれて……

 その新しく生まれたネコも半年も経つと出産できるはず。


 一匹のメスネコを自由に任せて放置しておくと、それこそ自由に恋愛して一年で四〇匹に、二年で二〇〇匹にもなるって聞いたことがある。

 そんな思考を中断し、チラ、と美少女学園長の方を見る。

 ふんフフン、といった感じでやけに自信たっぷりだ。

 知らないのだろうか? ネコ、脅威の繁殖力を。パンダじゃないのに。よぉし——

「ここには十数匹ものネコがいます」わたしは言った。

(多いようで少ないもんであ〜るな)

「甘いです」

(どう甘いのであ〜るか?)

「半分くらいがメスネコだとして、たぶん避妊もしてないと思います」

(ワタシとしてはそうでなければ困るのであ〜る)

「ネコたちは凄いんですよ。これだけのネコを一緒に飼って十一ヶ月も経てば確実に三桁匹になりますよ。そんなの手に負えるんですか?」

(負えるも負えないも無い。そうでなければ困るのであ〜る)

 美少女学園長はダメを押すように同じことばを繰り返した。有無を言わさずという強い強い意志を感じる。そうしてダメ押しのダメ押しでこう口にした。

(この生き物たちは、キミのものか?)

「……いいえ」わたしは目線を下に落とす。だけど——「——でもそれだったら、わたしにネコたちについて訊く意味が無いじゃないですか!?」

(あるのであ〜る。この生き物たちが誰のものでもないのなら、これらを持ち込んだロインという生徒のものになる。ワタシとしてはあのような者と交渉するわけにはいかんというわけであ〜る)

(なにそれっ!? なんでわたしだとダメなのっ!?)と割り込んでくるロイン。

(堂々と不正に手を染めようとするような生徒と取り引きなどできないのが当然であ〜る)

 ロインを睨みつけるように美少女学園長が言った。なぜかこんなカワイイ外見なのにその姿にロインは立ちすくみもう何も口にしなくなった。

 美少女学園長が口だけで笑った。

(ではここでひとつロインに訊こう。この宇宙生物はキミのものであ〜るか? 即ち責任持って飼えるのか答えるのであ〜る。ここにいる宇宙人娘に聞こえるよう答えるのであ〜る)

 きっ、汚いっ! これ返事は決まってる!

(こんな生き物は飼えません……)ロインは答えた。案の定。

(であるなら持ち主不詳で全部ワタシの所有——ということにしてもよいが——)

 いきなり没収宣言!?

「待って下さい! そんなのはダメ——」

 それじゃあわたしが助かるためにネコたちを本当に犠牲にしたことになる——せめてたとえ十一ヶ月後でもわたしといっしょに誘拐されたネコは元の場所に戻さないと!

「あのっ、わたしが答えるのが適当かどうかは微妙ですけど、わたし的には……」

 わたしは小さく息を吸い込み覚悟を決める。

「このネコたちわたしのネコでいいのかなって」

(なら決定であ〜るな。これで三人とも幸せになったというものであ〜る)、美少女学園長は朗らかに言った。


 言っちゃった。宣言しちゃった。このネコたち全部わたしのネコだ。

 よかったのかな……

 言った後も半端な後悔が余韻のように広がっていく。

「あのっ、ロインがまた今度も留年したとかになっても、ネコたちを帰してくれないとか無いんですよねっ?」そう声が出ていた。

(なんなんのっ、『また今度も』って!?)とロイン。

 試験のデキについて『奇跡』だとか言ってたの忘れてる?

(この生き物たちを使って不正をしようとしたのだから『進級見込み』について疑われて当然であ〜る)、と美少女学園長は言い、そしてわたしの方を改めて向き、そして言った。

(『地球』という異星時間で十一ヶ月後には、ここに今いるこのネコという生き物を必ず返す。ロインの成績如何に関わらずこの生き物たちは返す。それを約束しよう)、と。

(なんならこの生き物たちをワタシが直接キミの星に届けることも約束しよう)、さらに追加でそこまで言った。

 今度はこの美少女学園長が地球に来るっての? 自らUFOに乗って?

 そこまで言ってくれている。ネコ好きにわるい人はいない……はずはないけれど、そう思いたい——

 


 この後わたしはネコたちの数を数える作業を始める。改めて数えてみると十七匹いた。数なんて数えたことなかったな……そのネコたちを一匹一匹スマートフォンで撮影していく。同じような模様のコが生まれてそれで大きくなっちゃったらどのコが地球の日本生まれか分からなくなりそうだけど……

(遺伝情報で個体管理すればいいだけであろう?)

 ひっ! と思わずドッキリ。美少女学園長はいつの間にかわたしのすぐ横に立っていた。

 至近距離で思いっきり目が合ってしまう。

 その髪型のせいなのかロインよりも若干美少女度が上のような気がした。

(それともその機械、それほど高度な機能がついてないのかのぅ)

「バカにしないでください。そりゃあわたしの星ではUFOなんて飛んでないですけど——」

(UFOとはなんであ〜る?)

 UFOとは未確認……あっこの星では普通に乗り物か。じゃ確認されてるじゃ……

(そんなつまらぬことで話しかけてはおらんのであ〜る)

 思ったことを全部読まれてしまうというのは問題だ。

「じゃあなんなんです?」わたしは訊いた。

(キミは友だちはおるか?)

 うなっ、なんで宇宙人にそんなに心を貫いて突き刺すようなことを言われなきゃいけないのっ!?

(ほう、キミは人の忠告に耳を貸す意思なしか)

「人の心を読まないでくださいっ!」

(この星の人間は誰でも読めてしまうのであ〜るからして仕方あるまい)

「わたしはこの星の人間じゃありません!」

(ならやめておくかのぅ)

「ちょっと待ってください。ここで言うの止めるなんて気になるじゃないですか!」

 美少女学園長はもったいつけたように白い歯を見せにこりと笑い、語り始める。

(『友だちがいるか?』と問われ気色ばんだのがキミであ〜る。つまり『いないのは体裁が悪い』と思っておるからそういう態度になる。であ〜るが友だちはいればいいというものではない)

「どういう意味です?」

(友だちは選ばねばならん。中にはいない方がマシ、というカギ括弧入りの『友だち』もおるのであ〜る)

 なにかを言おうとして慌ててことばを飲み込んだ。わたしの顔を茶化した人間との関係をわたしは切ってしまったんだった。わたしこれをもう実践しちゃってる。美少女学園長はわたしの心の内を早読んでしまったのか話しを区切らず続けていた。

(——キミはロインに誘拐された挙げ句結局ロインの言うがまま、ずいぶんとロインのためにいろいろと世話をしてやったようであ〜る)

「そうですね」

(ではその逆の方向は?)

「ぎゃく?」

(一方的な方向の関係しか見込めぬなら、はて? その関係は今後もそのまま繋げておくべきであ〜るのかのぅ?)

「今のわたしは立場が弱いです。わたしの力では地球に帰れないのですから!」

(ほぅ、『今だけ』であ〜るか?)

 さすがのわたしも段々と腹が立ってきた。なぜこうも試されるようなことを宇宙人にされているのか。これも一種の人体実験じゃないのっ?

「そういう学園長先生には友だちはいるんですかっ?」

(寄ってこられないように——)、と言いながら美少女学園長はさらにわたしの顔に近づいてきた。

 なっ、なによっ!

 美少女学園長は腰を折りわたしの足元に手を伸ばしひょいっと『黒ネコちゃん』を一匹抱きかかえた。 なー、と『黒ネコちゃん』がひと啼き。

(この宇宙生物たちが必要なのであ〜る)

 これは確実に自分の家をネコ屋敷にしようとしてる。多頭飼育崩壊のパターンだ。そしてその目的は『人が近づいて来ないように』だなんて——


 『黒ネコちゃん』が嫌いとかそういうのは一切無い。だけど美少女学園長ほど黒猫の似合うヒトはいない。そう思った。『黒ネコちゃん』はひとつあくびをした。そして今も温和しく美少女学園長に抱かれたまま——

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