第16話【美少女、能力解放! 無効化魔法(?)を発動させる】(だが、その時、主人公の隠れたあらゆる魔術を無効化する力が発動)

 それって例えるなら全員トーダイ(東大)に入れるってこと? こんなわたしでも——

 目の前の小生意気な美少女学園長の言い草にシビれているわたしがいる。

 この星には日本の『高校』や『大学』に該当する学校がひとつしかない——

 その価値観は今のわたしにとっては魅惑そのもの。心に広がる希望と未来。


 『白ネコちゃん』はまだ美少女学園長におとなしく抱かれている。ネコがなつく人はいい人なのかもしれない——

 人生が『学歴』だとか『学校名』に左右されないなんて! なっんてっ、すっばらしいことなのー! 中学レベルではわたしこういう価値観じゃなかったけど。

(その表情を見るにまんざらでもなさそうじゃの)

 わたしは無意識に肯いていたかもしれない。

(じゃあ提案があるのであ〜る)、唐突に美少女学園長が妙なことを言いだし始めた。

 わたしはなんのことか分からず声も出せずにいた。

(キミにその気があるのなら、我々の星に留学することも可能であ〜るが)


 わたしが留学!? それも宇宙留学っ!?



(『ふたばどーり・みさ』さんっ、そいつの言うことに騙されてはダメですっ!!)

 突然ロインの声がわたしの脳の中にやかましく響いた。

 わたしとネコたちを置き去りにしてる女の癖に——

(返事を。返事をお願いします! 騙されちゃダメですっ!)

 いったい誰がわたしを騙したのよ。ふざけちゃって。

(現在逃亡中なのはゴメンなさい)

 さてはわたしの内心の怒りを読んだか。謝るくらいなら最初から逃げるな!

(だからごめんっ! 『こうなったらー』で察してくれるかと思ったんだけど)

 あぁそう言えば言ってたっけ。

「いやなにも察せないけど」

(時間稼ぎですよ)

「なんの?」

(察するにはあれくらいの時間が必要でしょ)

「だからなにを察して欲しいわけ?」

(『ふたばどーり・みさ』さんもいっしょに逃げてくれるかなって)

「あなたの宇宙船から離れちゃって、わたしはいったいどこへ逃げるのかしら?」

(そ、そうでしたー)

「逃げるならせめてわたしの手を掴んで引っ張れ!」

 まったくわたしを置き去りにして!

(今度からはそうするから)

 今度なんてものがあるわけ?

(でも『ネコ』とかいう宇宙生物を基準に人を判断してはダメ!)

 …………

(あっ、いえ、えーと、言いたいのはこんなことじゃなくて、ほら、目の前の学園長。ただ立っているだけ。親切心を装っていても『ふたばどーり・みさ』さんの希望を叶える素振りなんてしてないでしょ)

 そうロインは言った。


 言われてみれば……そのとーり……。ロインの言ったとおり。わたし『留学』なんて求めてない。わたし地球に帰してくれるって言われてない。この美少女学園長は言ってくれない。『留学』ってのはこのまま拘束され続けるっていう意味だ。

 そういう意図を確実に持っているであろう美少女学園長は今なお微笑みながら立っているだけ。

 なにかすごく良いことを言われたような気がしてなんだか気分がぷかりと浮いちゃってて——そんなのをロインなんかに指摘されて……

 なんで『白ネコちゃん』はまだおとなしく抱かれているの!?


 つまりこれは相変わらずわたしが地球の日本へと帰れなくなるっていう状況のまま。

 ちょっと、じゃあなにをどうすればいいのよ!?


(学園長と戦って)、ロインの声がそう返事した。


 はい? まさかキャットファイトをやれっての!?


(『白い宇宙生物』と『黒と白の宇宙生物』を戦わせて決着がつけられると思ってるんですか? 『ふたばどーり・みさ』さんは)、とロイン。

 いや、ここで言った『キャット』って『ネコ』のことじゃないんだけど……

(じゃっなに?)

 キャットファイトはもうどうでもいいから! どうやればこの場を脱出できるか言いなさい!

(だから言った。『戦って』って。なんでもいいから学園長の言うことに反論して)

 反論、なにに?

(いいから反論して! でないと帰れなくなるんだからっ!)

 学園長って立場上目上ってことでしょ? いいの?

(いいのよ)

 こんなのを真に受けていいのだろうか?


 そもそもわたしは反感を持ったり反駁や反発したりは割とするけど本格的に誰かに『反論』ってのをしたことが無い。そんなリアル経験なんて無い。

(なにを言ってるの? 『ふたばどーり・みさ』さんがわたしにしているのと同じ感覚で言っちゃえばいいのです)

 どういう意味!?

〝そう、それ。すぐ言い返す〟

 それをしろっての?

(そうです)

 それを学園長相手にやったら口答えになるんだけど。

〝あれはわたしから見たら学園長になるけど『ふたばどーり・みさ』さんから見たらなんでもない人でしょ?〟

 そういう問題?

(学園長の態度をよく見て)

 確かに、たくさんのネコたちがたむろう中であっても美少女学園長は平気そうだ。他の人達みたくネコたちを見て一目散に逃げ出してはくれない。もうネコたちは切り札になってない。

(わたしを信じて)

 ロインがすっごく厚かましいことを言ってきた。

 ロインは基本、わたしとネコたちを誘拐した誘拐犯人。しかし目の前の美少女学園長はわたしが地球に帰りたいと言っても『気の毒に、すぐに帰りなさい』とは決して口にしてくれない人————

 これが……現実。そして現況。


 わたしは決めた。

 あははははははっ!

 わたしは笑い出した。おかしくもなんともないが笑い出した。

 あははははははっ! とまだバカみたく笑っているわたし。

 それは正にヤケクソで無理矢理に下手な芝居を始めたのだった。学園長の態度でわたしは覚悟を決めたから。

「学園長センセイ、あなたの価値観はこの星では正しくても全宇宙的には間違っています」わたしはそう断言した。

(なんであ〜ると?)

 美少女学園長の顔から笑みが消えた。本当に反論なんかしていいの? 先生に逆らうとろくなことにならないのが万国共通の常識じゃないの?

 しかしもう言っちゃった後だ。手遅れだ。わたしはロインを信じてやったわけじゃない。わたしのカンがわたしの最終行動を決めた。ならここはこのまま突き進むのみ!


「勉強のできない生徒は速やかに退学させ中退に追い込むのがわたし達の正義!」

 言ってる自分の中に『そんなことしたら犠牲者わたしになるじゃないの!』という思いがあるけど、ともかくそう言ってしまった。

 己の価値観を絶対真理とする美少女学園長と戦うということは、彼女の価値観と正反対のことを敢えて言うしかない。

「なぜって退学の主たる原因は生徒自身の学校の選択ミスだから!」

 実は学校の選択ミスをしでかしたのは間違いなくこのわたしだ。確かに合格したときもの凄く嬉しかったけどその後もの凄く苦労させられてアップアップなこの現状。最悪の近未来が待ち受けているかもしれない。わたしはわたしのことを喋っている。

「勉強はできる人ができればいい。できない人を無理矢理できるようにすべきという理屈は無いのよ!」

 いや、本当はあった方がいいのだろう。これほど堂々と心に思ってもいないことを公言するなんて生まれて初めてだ。


 極端なことを言った後は少しだけ引いてバランスをとったように見せるのがいいんだっけ? 確か小論文の手法で習った記憶がある。

「しかしそれではあまりに極論すぎる。できない人が救われない。それくらいの思考だってわたし達はする。そこでできないなりに学べる学校が必要となるの。それが勉強がそれほどできなくても進級できて退学させられない学校! そうして誰もが己の力量に見合った学校へ行けるのよ!」

 また心にも無いことを言ってしまった。できないなりに学べる学校は社会的にたいして評価されず評価されないということはその未来において得られる収入にそのままつながっていくという負の連鎖が……

 ただ、女の子限定の特典として結婚で逆転する可能性はゼロではないけど……

「つまり、そのためには学校というのは一つだけというのはダメでいくつもいくつもある必要があるの! 重要なのは正にココ。勉強ができる人のための学校があるなんて当たり前。そんなものどこにでもある。勉強ができない人のための学校もある。これこそが真の解。学校がいくつもいくつもある。これこそが正に教育文明っ!」

 もはややけくそで言っていて自分で何を言っているのか解らなくなっている。


 美少女学園長は完全に固まってしまい、にゃー、とひと鳴きして美少女学園長におとなしく抱かれていた『白ネコちゃん』もするりと地面に降り立った。

 もしかして、ものすっごく精神的ダメージを与えたとか?

 もしかして、わたし、勝っちゃった、とか?



 だけど————

(なんという、ありえない、信じられない、この世のものとも思われない、末恐ろしい意識の低さであ〜る)なんて声が脳の中に響いてきた!

「ちょっと! わたしのこと蔑んでるでしょ!?」

(うん、蔑んどる。ただしキミではない。キミの星の『教育のしくみ』についてであ〜る)

「間違っているっていうの!?」

(ワタシは己の意見を言うた。キミも自分の意見を言うた。じゃが互いに分かり合うことはなかった。それだけのことであ〜る)

「え? え? え? それだけってどれだけ?」

(この星に在る魔術の如き絶対価値観も、キミらの星では無効化されてしまうようであ〜る。黙って歩いておればこの星でも違和感なく溶け込める文明人の外観を持ってるというに。しょせんは宇宙人であ〜るな)


 ……

(ただし、であ〜る)

「ただし、なんですか?」

(そこまでよどみなく自己の信奉する価値観をこのワタシに言い切ったキミは、ひとかどの生徒であると認めないわけにはいくまいの)

 ……信奉…………って……

 これって厨二風に言うと、

 『わたしの隠れたあらゆる魔術を無効化する力が発動っ』——てなカンジになるのかな?

 相手に与えたダメージ、ゼロっぽいけど————なんといっても美少女学園長はまだ微笑んだままだったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る