第15話【美少女、窮地に陥る】(主人公が——窮地に陥る)
『帰れるのかの?』と、美少女学園長はふわふわしたような、しかし抑揚のない平坦な声でわたしに言った。たぶん今の状況は生きてきた中での人生最大の窮地。
「ああ、そうでしたあ……」
(『そうでした』ではない。どうするつもりかのぅ? と訊いておるのであ〜る)
「ネコたちを責任持って捕まえますから。だから——」
(『だから帰して欲しい』と?)
「ええ」
(これだけのことをしでかして無事に帰れると思っているのかのぅ?)
「やだなあ、わたし宇宙人ですよ。宇宙人のやることなんだから大目にみて欲しいなあ」
(見ないのであ〜るっ)
至極当然といったふうにあっさりと戻ってきた。
(キミはロインの片棒を担ぐために、たったそれだけのために、ここの学校の人々を恐怖に陥れ大混乱を起こしたのであ〜る。宇宙人的無邪気さを盾に甘くしてもらおうだなんてずいぶんと甘いのぅ)
さらにダメ押しだー! しかもまだ表情が微笑み顔のままだー!
ほいっ、とわたしはまだ抱いたままの『黒白ぶちちゃん』を美少女学園長の眼前につきだしてみた。
しかし美少女学園長は慌てず騒がずその辺にいたネコたちのうち一匹に手を伸ばし、ちょうどそこにいた『白ネコちゃん』を抱きかかえた。『白ネコちゃん』は逃げ出しもせずあっさりと抱かれてしまった。美少女学園長の表情は変わらず、微笑み顔のまま。美少女学園長に抱かれた『白ネコちゃん』はたった今もおとなしく抱かれたままになっている。
(そのつまらぬ脅迫、どうやらキミは本気でワタシを怒らせたようであ〜るのぅ)
これはやせ我慢じゃない。ネコたちの神通力が目の前の宇宙人には効かない! この星におけるネコは『怪奇・宇宙生物っ!』じゃなかったのっ!?
どうしよう。どうしよう——
そうだ。目の前の女の子の属性は『学園長』だ。それは曲がりなりにも『教育者』ってことだ。わたしは明日までに地球の日本へ帰って不得意教科、英語と数学の今後についてセンセイと協議しなければならない。しかも親を巻き込んで。
この事情を説明すればきっと解ってくれる!
「あの〜」
(なんであ〜る?)
「わたしー、明日までに帰らないと学校を退学になっちゃうかもしれないんですよー」
わたしは『泣き落とし』を試みていた。わたしの『泣き落とし』、必ず通じるはず。しかし——
(たいがく、とは?)、と美少女学園長はすっとぼけたことを口にしていた。
「学校を辞めさせられるってことです!」思わず語調が厳しくなる。
ぷっ、と美少女学園長が吹き出した。
「なにがおかしいんです?」
(そんなわけあるまい)
「そんなわけあるんです!」
(では訊くが、『学校を辞めさせる』という野蛮極まりないことを実行するに当たり、どういう理屈でそれを正当化しているのかのぅ? ワタシに言ってみよ。よもや、その理屈すら持ち合わせていない野蛮な星から来たわけではあ〜るまい)
「数学と英語ができないんです!」
(そんなわけあるまい)
「わたしが数学と英語ができないのはホントなんですよっ!」
(なんの科目ができないとかいう意味では言ってはおらん。だいいち『エーゴ』というのはなんであ〜る?)
まあ、宇宙人だし『英語』だなんてことば知るはず……、いやいやいやそうじゃなくて、
「じゃあどういう意味です⁉」
(勉強を教えるのが学校なのに、勉強ができないという理由で生徒を追い出すのなら、それはもはや学校とは言わんのであ〜る)
!!
なんかいま、ものすっごく良いことを言われたような気がする————
学業不振で退学なんて、そんな理由の退学なんてあっちゃいけないんだ————
(遥か辺境な星の宇宙人のすることは野蛮であ〜るのぅ)
だけど美少女学園長は上から目線でひと言余計だ。
「とにかくっ、ネコを職員室に連れ込んじゃったのは謝りますから、そういう事情なのでわたしを明日までに地球の日本へ返してくださいっ」
(ふーん)
ふーん、って、まさか信じてない? わたしの言ったこと。
冗談じゃない。わたしは明日までに帰らなきゃいけないのに。
もはや大学受験(大学名受験)は諦めている。卒業証書まで辿り着ければどこかの大学に入れる! 卒業証書(というか卒業見込み)まで辿り着かないとどんな名前の大学でもそもそも受験資格が無い!
だけどこの高校だけは卒業したい。キセキの結果せっかく入学できたんだ。卒業証書までなんとか辿り着くことができれば、大学受験の結果のせいで金看板には絶対にならないけど、銅看板くらいにはなる。
「わたし今のこの高校だけは卒業したいんです。苦労してやっと入ったんです。だから帰してくださいっ!」
(嘘くさいのう)
嘘!?
「なんでです!?」
(学校に苦労して入るわけがあるまい)
「じゃあ学校って楽な場所なんですかっ?」
(楽なわけがあるまい。学校とは中で苦労する場所であ〜る)
「中で苦労するのは当たり前です。そうしないと次に入れなくなるから」
(——よもやとは思うが)と美少女学園長は前置きし、(学校がいくつもいくつもあ〜るわけではあるまいな?)と口にした。
「その『よもや』、ですよ」わたしは言った。
美少女学園長は『白ネコちゃん』を抱いたまま、ただキョトンとした表情をしていた。そしておもむろにこう言った。
(野蛮な星には遅れた風習があるものであ〜る)
また『野蛮』って言った!
(この星では学校はひとつだけであ〜る)、美少女学園長はさらに続け、なにげにそう言っていた。
「は?」
(なにが『は』であ〜るか。考えてもみよ。学校がいくつも林立していたら公平平等な教育が実現できぬのであ〜る)
「本当にひとつしかないの?」
(当たり前であ〜る)
「でもそんなにたくさんの生徒が一カ所に——」まで言い掛けて気がついた。
そうだ。一カ所に集まる必要なんてないんだ。通信回線があれば場所なんてどこでも——でも待って!
「けどでもっ、小学生や中学生はいいけど高校生や大学生になったらどうなるの? たったひとつだけじゃあほとんどの人が入れないじゃない!」
(全員入れるのであ〜るが)
それって、『全入』?
(なんであ〜るか、その顔は)
「じゃあ入学試験は? 勉強ができないと高校や大学には入れないはず」
(入るための試験は存在しないのであ〜る)
『誰でも入れる』って、確かにそういう意味に聞こえた——
(さっきも言ったが勉強をできるようにするところが学校なのであ〜るから、勉強ができないという理由で『入れぬ』などと、そんな理屈が存在できるはずがあるまいて)
それって例えるなら全員トーダイ(東大)に入れるってこと? こんなわたしでも——
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