第11話【美少女、ふたり。ネコといっしょに雑魚退治】(小指一本で雑魚を蹴散らした主人公達は)
UFOの窓の外、周りに人が集まって来ている。それもけっこうな人数だ。決して少なくない。なんか指を差している人がいるし、大声を出している人もいる。みんな原色のブレザーみたいのとか着ててなんというセンスなのだろうと頭がバランスを失って倒れそう。
でもなんでこのUFOの周りだけにこんなに人が集まってるの? はや悪巧みが露見したっての? ただ集まっている人はみんな生徒の人のようで教師は来ていないように見えた。
(『ふたばどーり・みさ』さん、もう強行突破するから)、ロインが窓の外を見ながら宣言した。UFOの外に出た途端もう強行突破。
「この包囲網をどうやって突破するのよ? かなり人が集まって来ているのに」
(元はと言えば『ふたばどーり・みさ』さんがぐずぐず話し込んでいるから)
「打ち合わせはこのUFOが宇宙を飛んでいるときにすべきだったでしょ!?」
(それしたし)
「わたしを巻き込む同意を得るためにはしたけどね。したのはそれだけだし。着替えは着陸してからだし。もっとぐるぐる飛んでそこいら辺りの時間を作る必要があったってこと!」
(飛びっぱなしだと燃料代が余計にかかるし)
この問答は今さら不毛だ。
「で、なんでもう感づかれているのよ!?」まだなんにもしてないんだから!
(学校職員しか乗り物に乗って来ちゃいけないから)
「ハァ? ここ駐車禁止ってこと?」
(厳密には駐機禁止だけど。まあ通学は公共交通機関でってことだから)
「……」
『学校にバイクで来てはいけません』。たぶんこんなノリの校則のせいで当初の計画がもう狂ってる。この場所に生徒の乗り物を置いちゃいけないのなら、ここに着くなり行動を開始しなければならなかったのだ。着陸する前に着替えるべきだったし。まぁわたしも時間浪費の原因だったりするけど……けどこの計画、杜撰。ずさん過ぎる。やっぱりロインって杜撰だ。こんなんだから留年の危機に陥るのよ! でもある意味これは幸運。今ならまだ引き返せる!
わたしはUFOの窓から外を見ながら、口にした。
「もうこれじゃあ職員室にたどり着けないよね」、と。暗に作戦中止を進言した。
(方法は、ある!)
やけにキッパリハッキリとロインが言った。
「女の子に腕力は無いのが普通。『強行突破』なんて口で言うほど易くはないのよ」
そう自嘲気味に言ってみる。悪事が未然に防げるのなら、それはそれでたいへんにけっこうなことだから。
(『ふたばどーり・みさ』さん、あの箱の中から一匹つまみ出して抱えてみて)
ロインはそう言いながらネコたちが詰め込まれた宇宙宅配便箱を指差した。
ネコをそんな風に使っちゃうの!? ちょいちょいちょい、ちょいっ!
「待ちなさい! 確か解き放たれたネコたちをわたしが回収することで、わたしのポジショニングは『感謝される人』になる計画だったよね?」
(俗に『計画倒れ』ってやつかなぁ)
「計画倒れじゃないっ!! そんなこと訊いてない。わたしがネコを抱きかかえて周囲の人を脅したら思いっきり共犯者だと分かっちゃうじゃない!」
(えー、そんなー、『ふたばどーり・みさ』さんだけがわたしの頼りなのに)
「うるさいっ、誰がそんな泣き落としに……」
——泣き落としに落とされたわたしがいる。
ネコを抱いて歩くだけって暴力でもなんでもないから大丈夫のはず……わたしはそうわたしを合理化し始めていた。
ロインのその顔は本当に隙のない『困った美少女の頼み顔』で、そんな顔をされて頼まれたら断れないよ、という顔だったからこんな事になっている。
わたしは女子なのにまるで男子のようにこの顔に引っ掛かるとは……
まあいいや。いざとなったらわたしだって泣き落としでやってやる。美少女顔だったらわたしだって負けてないんだから。その時は——
『宇宙の果てへと誘拐されて地球へ帰りたくて仕方なく手を貸してしまったんです』、とでも言おう。
地球に戻るため日本に戻るためだから。わたしは本来悪事に荷担するような美少女じゃないけど(野良ネコたちに餌をあげるのは大目に見て欲しい)、これは生きるためにしかたなくやるのだ————とまた同じことを考えてしまう。わたしの泣き落としは誰かに通じるだろうか?
「もう、しょうがないわね」
なんだかこればっかり言ってるような気がする————が、わたしは言ってしまったのだ。
これは一線を越えることを意味する。犯罪の加害側に巻き込まれるという時ってこういう妙な仲間意識の虜になるってことなのかな。
(じゃあ一匹選んでね)そう言ったロインは箱の上蓋を解放した。
ありがとう、くらい言えよ……
とにかくやる以上は最低限守らなくてはいけないことを頭の中に叩き込んでおく必要がある。それは周囲の人に危害を加えないこと。宇宙生物(ネコ)をここの宇宙人に突き付けいかにもな脅しをするとかそういうことをしないこと。
そう、イノセント。わたしはイノセントになるの。純粋無垢に。虫愛づる姫君になるの。
よし、無邪気にネコを抱こう。そうして歩いていくの。
箱の中を見るとネコたちがみんな一見気持ちよさそうに寝ている。
訳の分からない箱の中に閉じ込められて可哀想に……
とは言っても一匹選ぶとなるとどうしても贔屓してしまう。わたしは『黒白ぶちちゃん』に手を伸ばし抱いた。
「準備OK」
(よし行くよっ)、とロインが応じた。
いまゆっくり、ゆっくりとUFOの出入り口、床の白く光る真円の方へと歩き出す。
ロインと『黒白ぶちちゃん』とあとそれとネコ入り宇宙宅配便箱といっしょに光りの柱の中を降りていく。
降りながらわたしはUFOの周りに集っているロインの学校のヤジ馬の人たちの顔を観察する。その表情はみるみる画一化していく——誰も彼も硬直している。
ここに静寂の空間が生まれていた。
不気味な恐怖の宇宙生物『ネコ』。効果はてき面と断言していい。
わたしは胸に『黒白ぶちちゃん』を抱き不自然に満面に笑みを浮かべている。
確か海が割れて道ができたというお話しが聖書に載っていたと思うけど、正にそういう感じで目の前の光景が展開してる。人垣がふたつに割れていく。
だけど安心してはダメ。油断してはダメ。
わたしは歩き出す。歩くのを止めたら取り囲まれるかもしれない。その時再び歩き出しても今度はふたつに割れてくれるかどうか分からない。逃げても走ってもダメ。
背後、ロインも動き出したという気配を感じる。
歩速は緩くひたすら緩慢に。緩慢に。緩慢に。
ただひたすら、このゆったりとした速度のまま維持して歩く。いのせんとに、いのせんとに。わたしの邪魔をする者は誰もいない————
人々が根の生えたようになりまるで木々のように動かなくなってしまった中をわたしとそれに続くロインだけがしずしずと歩いて——
なー
『黒白ぶちちゃん』がひと啼きした。場がシンと静まりかえっていたせいもあるだろう。ばかに大きな鳴き声のように感じた。
が、次の瞬間それ以上の耳をつんざく叫び声がそれこそ信じられないくらいの音量で響いた。誰も彼も我先にわらわらと蜘蛛の子を散らすように皆々逃げ出し始める。そのあまりの狂態にこっちのペースの方が乱れかけた。
そしてみんな散っていった。消えてしまった。
いまわたし、大グモを素手で掴み見せつけながら歩いているようなもの(地球基準)なんだね……かくしてあれほど集まっていたこの学校の生徒と思しき人々は、まるで指一本で蹴散らしてしまったかのようにいなくなってしまった。
これは案外上手くいくんじゃあ——
だけど後知恵で考えればだけど、ここに油断と落とし穴があった————
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