第8話【美少女、ふたり仲良く(?)ネコ捕かく】(主人公とヒロインはタッグを組む その四)

「おいでー」

 わたしはネコに猫なで声を掛け、ロインが持ち出してきた奇妙な箱の中に入れるため誘導を試みたがどのネコも来る様子がない。

 うーむ、なんとなーくそんな気はしてたけど、わたしはネコたちが大好きだけど、ネコたちはいまひとつわたしにはなついてくれないような……まぁ飼ってもいないネコがなつくなんてこともないんだろうけど。

 でもそもそもネコってなつくのかな……


 取り敢えず一匹だけ近くのネコをつかみ抱きかかえる。それをそのまま箱の中に置くように、

 ぽい。

 警告音とやらも鳴らず何ごとも起こらない。普段から餌をあげているだけあってわたしが近づいても逃げるということもなくあっさりつかまってくれる。これって信頼なのかなぁ——

 箱の中のネコはどうしてるんだろう、とわたしは箱を上から覗き込む。外から見るより箱の中は深いように見えた。

 血が引くような感覚がした。

 さっき入れたばかりの白ネコがくたりとして動かなくなっていた。


「ちょっとっ!」

(はぁい)

「まさか死んでないでしょうねっ!?」

(死なないよー、宅配便屋さんが運びやすいように箱がそういう造りになってるんだよ)

「このネコたちが『気持ち悪い生き物』ということなら死体の方が気持ち悪い、ということも成り立つはず」と問い質す。

(それじゃあ動かないから混乱は一時的で終わっちゃう。この宇宙生物たちが好き勝手に動き回るから混乱の時間が長くなる。わたしからすれば混乱してる時間は長ければ長いほどいいんだから)

 なんだろうこのすごくもっともらしい悪党の論理は。ともかく白ネコの生死を確認しないと。

(疑うなら論より証拠、箱から出してみてくださいよー)ロインは言った。

「箱の中が深くてつかまえられない!」

(箱の中に手を入れて。そしたら上の方に浮き上がってくるから)

 わたしはロインに言われたとおりに箱の中へと手を伸ばす。白ネコが浮かび上がりわたしの両手の中ににすぽっと入ってきた。静かにしかしぎゅっと白ネコをつかみ上げ箱の外に出す。わたしに抱かれたネコは活動を再開し始めた。

 ほっ、とする。

(ね、大丈夫でしょ?)

 わたしは声の方に顔を向ける。

 朗らかだ。邪なことをしようとしているのにどうやったらこの笑顔が作れるのかな。まるでこれ素みたい。なんて怖ろしいコ。

「大丈夫じゃなかったら怒っていたからね」わたしは言った。

(まさかー、わたしがそんなことするように見えるー?)

 はっきり言って見える。

 ネコたちを職員室に解き放ったあとネコたちをどうやって回収するか考えていなかったくせに。とは言えロインはわたしの心の声を読んでしまう。下手なことが伝わればこの目の前の美少女型宇宙人を怒らせることになる……のだが怒る様子がない。華麗にスルーされてるよう。わたしと宇宙人、なんだか妙な関係だ。

「さあ?」、とロインの問いにわたしはそう答えておいた。あからさまに『ネコを殺すように見える』とも言えないし、『ネコを殺さないように見える』と言うのも嘘になってしまうから。

 わたしはこれでも根が正直な方でまっすぐな方なのでお茶を濁しておいたのだ。

 そんなわたしの心の内を見透かしたかのようにロインから(だから箱の中へ。お願い)、と言われてしまいおまけに日本人風に頭を下げられた。

 いったいいつの間に覚えたのやら。

「しょうがないなあ」、とわたしは言っていた。

 めいめい好き勝手に動き回っているネコたちに視線を送る。このコたちとわたしは同じ運命の舟に乗っている。

 わたしは割り切れ無さと共に一匹一匹ネコを抱き上げては謎の立方体の箱の中へと移していく——



 わたしがさっきから行ったり来たりしてネコを確保しているのにロインはただニコニコと微笑み顔でそこに立っているだけ。立ってるだけ! なんか腹立つ! 腹立ってくる!


 そして一匹だけを残し、他全てのネコはわたしによって謎の宅配便箱に回収されていた。


(あの、まだいるんだけど〜)、と指を指しながらロインが遠慮がちに言ってきた。

「そうね」と返事をしておく。

(えーとぉ、これは?)

「『わたしもネコの回収をする』って言ってたよね? じゃああのネコで実践してみたら?」


 そこにいるのは茶色のトラ猫、『チャトラちゃん』。

 ロインは何とも言えない顔の崩し方をした。美少女顔が台無しと言っていい。

(……分かったよぉ)

「そう。じゃあお願いね」とわたしは無慈悲に言ってやる。


 ロインはそろそろと『チャトラちゃん』の背後から近づいていく。


 そんな近づき方じゃ逃げられると思うケド、と思ったらやっぱり気配を感じた『チャトラちゃん』に逃げられていた。

「正面から行ったら」とアドバイス。

 いかにも嫌そうな顔をしながらロインは『チャトラちゃん』の正面へと廻った。『チャトラちゃん』は顔を上げ動きを止めていた。

 ほんの一歩だけロインが足を進めた。その刹那バッと『チャトラちゃん』が猛ダッシュして逃げた。

 ネコに逃げられる人っているんだ。もしかして宇宙人だと分かってる?

(『ふたばどーり・みさ』さ〜ん——)、ロインが情けない声を出した。

「しょうがないなあ」、またわたしは同じことばを口にした。

 わたしは『チャトラちゃん』の正面に廻って座る。

「おいでー」と言って手を広げると『チャトラちゃん』が来てくれた。少しだけなでなでして逃げそうにないのを確認してからキャッチ!

「みんなの所に行こう」と言って箱の中に入れる。これで全てのネコの回収が終わった。


(さてこれでようやく着替えられるね)、そうロインが口を開いた。

「きがえ?」

(『ふたばどーり・みさ』さん、ちょっと待っててね)、そう言ってロインはわたしの疑問への返事を省略した。

 UFOの壁をちょいと触ると例の光りの柱が天井から伸びてくる。その中へと入り込みロインは階上へと浮かび上がって行った。


 僅か三十秒ほどでもう戻ってきた。ハンガーにかけた二着の服を手にして肩には大きなトートバッグのようなものを掛けている。

 宇宙人も持ってるハンガーとトートバッグ。とそんな妙なところに感銘を受けてたが問題はそのハンガーに掛けられた服。

 その服は明らかにヘンだった。

 『ゴシック・ロリータ』。

 かつてちょっとしたブームになり、でも今は聞かないような、でも絶滅した訳じゃないごてごてとした衣装。

 そう、わたしには——それは服と言うよりも……、『衣装』にしか見えなかった。

 二着ある……そしてここには二人。ということは……

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