第7話【美少女、遂に美少女宇宙人の共犯者となってしまう】(主人公とヒロインはタッグを組む その三)
なにか、わたしなんかが価値をぶつけ合っても空しい気がする……わたし自身がわたしを取り巻く価値観をどれほど信じているのやら。
もはや何も言うまい。このコが抱えている問題がある部分についてわたしとモロに被っていて——もう考えるのも嫌だ。むしろこのコの方が恵まれているような気さえする。
「とにかく今なら時間的には手遅れにはならないということね」
(うん)
「でもね。答案改ざんが明るみに出てしまった場合、別の意味で手遅れになるんじゃないの?」
(絶対にバレないよー)
「どうだか。改ざんの痕跡が残ってしまうオチが予想できるけど」
(ああ、それ? 確かに『書き換え』なら痕跡は残るけど、『書き加え』なら何も残らない。そのシステムの不備を突くの)
「なんでそんなのが解るのよ。まさか『以前も同じことをした』とか言わないよね?」
(システムのプログラム解析で穴を見つけた)
……
「あなた、そういうことが解るのにどうして落ちこぼれかけてるの?」
(しょーがないじゃない。わたし学校と相性が悪いんだよー)
それを言われてはわたしの立場では返すことばもない。勉強はできないわ、友だちもできないわで、わたしも相当学校と相性が悪い。
(それよりさっきから『ふたばどーり・みさ』さんは計画を止めようとしてくれてますけど、それはわたしを心配してくれてのことですか?)
どうせ心の中は読まれている。これは『引っかけ』だ。
「ネコたちよ」わたしは言った。
(じゃあネコ回収計画まで考えたら『ふたばどーり・みさ』さんが協力してくれるかなって……そう思っていいんですねっ!)
やっぱり中止の意思がカケラも無い。この宇宙人っコは絶対にやらかすつもりらしい。
「計画ったって、どうせ回収はわたしがやるしかないんでしょ?」投げやり気味にわたしは言った。
(手伝ってくれるの?)ロインが反芻するように訊き返してきた。
なんで目をキラキラさせているっ!?
「本当はこんなこと最初からやらないのがいいんでしょうけど、どうせ『やらない』つもりもないんでしょ? だったら後はわたしはネコたちのためにやるしかない」わたしは言った。
(やったー!)
わたしはロインににじり寄って釘を刺す。
「いい? わたしはあなたの悪事に協力するんじゃない。そこのところを絶対に忘れないように!」
(ならわたしの方もそのお手伝い返しする——)
この直後、わたしは美少女宇宙人ロインから意外なことを言われる。
(——わたしもネコの回収をするって言ったら、『ふたばどーり・みさ』さんは納得してくれるかなって……)
「ネコが、苦手なのに?」
(うん……)
思わずハッとした。
わたしは女子だぞ。なんで美少女顔の宇宙人にこんな表情されて心がくらりと動いてるのよっ! わたしは宇宙人にアブダクションされて地球に帰るために仕方なく——
(わたしも仕方ないんです)
「し、仕方なくって、と、唐突になによ!?」
(『ふたばどーり・みさ』さん、仕方なくって思ったでしょ? だから——)
また心を読まれたのか。
(『ふたばどーり・みさ』さんの家はお金持ち?)
とっ、唐突になに?
「お金の話しをするなんて……なんだか下品で……」となんだか意味のよく解らないことをわたしは喋りだしていた。
わたしの家はお金持ちとは言えなくても小金持ちだとは言える。並以上だろう。わたしはお小遣いに困ってない。だから毎日学校帰りに十匹以上のネコたちに餌をあげたりしている。キャットフードを買うお金を持っているからだ。
わたしはなぜか後ろめたくなってくる。
「いえ、お金ってのはその、その、わたしの家も金持ちであるわけないけど——」
いったいわたしはなにを言っているの?
(わたしは勉強ができない。そんなわたしが今年だけは奇跡的にテストができた)
「それは奇跡じゃないよ。おめでとう」
(おめでたいわけない。『奇跡的にできた』ってのはあくまで『わたし基準』での話しなの。客観的にはC評価にほんっの少し足りない)
「しーひょうか?」
(最低限の合格ライン)
わたしはロインを見つめる。
「ロインの家がお金持ちならこういうこと——してないよね?」
(そう——だと思う……)
「思うね——」
もうロインはなにも言わなくなってしまった。
「お金で点数を買うよりは少しだけマシかもね」、わたしは言った。近頃お金で医科大学の合格証書を買う事件が起こっていたし——
ロインが顔を上げてくれた。
なんだろう……わたしはこの美少女宇宙人に穴が開くほどに見つめられている。なんだかおかしな気分になってきた。こっ、これは宇宙人的術にかけられてるに違いないっ——
「あっ、あとどれくらいで着くのかしら?」わたしは咄嗟に話を逸らした。
小惑星だ火星だ金星だと無人探査機が宇宙空間を彷徨っているが、それら目的地まで辿り着くのに年単位の相当な時間が掛かっていることをふと思い出したからだった。
(実はさっきから着いているんですけどー)
「はい?」
UFOの窓の外、地球は青色だけどわたしは窓の外にそれとは違う色の星を見た。どちらかというと緑色に近い青色のその星を。
ホントに着いてる……
今から悪事に協力しようとしていて、けどそれまでにはまだまだ間があって——なんてことをなんとなく考えていたけど、もう決行? もうその時期が来てしまったの?
(打ち合わせが必要かなって、だからしばらく星の周りを回ってた)なーんて、ロインが邪気無さそうに言った。
これは……わたしを計画に引きずり込むまでの時間稼ぎでは……。もはや何をどう言い返せばいいのかも分からない。
『あぁ宇宙へ来たんだなあ』と感慨に浸る間もなくロインのUFOはあっという間に降下していく。真っ直ぐ縦に流れ続ける窓の外のその風景を意識朦朧と眺め続けてるわたし。気づけば下方に異形の建物が見えていた。その形はなんとも形容しようがない、建物に『直線』を一切使っていない、曲面だけで構成されたおかしな人工構造物。
その形状のみならずその色も明らかに『変』だった。ひと言で言い表すならそれは『原色の迷彩柄』。なんとも『あばんぎゃるど』なテイストだ。頭がどうにかなりそう。
そんなことを薄ぼんやりと考えている間にもロインのUFOは降下を続け——もう地面の上に着いていた。
宇宙飛行士の人たちが行っているような激しい訓練も必要なく身体になにも感じずあっさりと異星の地面に接地してた。
SFなんてもうどこかに吹き飛んでいて感覚的にはもう着いちゃったって感じ。少しだけ長く電車に乗って、その程度の体感。
知的生命体がいる異星ってこんなに近いのかそれとも謎の超技術のたまものか。
ロインが壁にそっと手を触れると触れた場所が光り、天井からまたも例の光りが床まで伸びて来る。今度はその光りの中を『下にまん丸の球体の付いた一辺一メートルほどの立方体』がゆったりと降りてきた。そして音も立てず静かに触れるように床に着地する。
「これなに?」
(これがさっき言った『ペット輸送専用の宅配便箱』だよー)
そう言ってロインはその立方体に手を触れる。立方体の上面がぱかんと開いた。
「ぜんぶ入るの?」
(問題はないから)
「こんなに狭いのに?」
この立方体、ここにいる全てのネコを入れるには無理がありそうな、そんな大きさだった。ここに全てのネコを入れるのは動物虐待だ。
(入るよ。この中ちょっとした異空間だし、見た目よりも中、広いんだから)
「異空間なの? コノ中?」
(でないと大きなペットが入らないし)
「そんな中にネコたちを入れて死んじゃったりしないよね?」
(なーに言ってんの? 死んだりしたら宅配便屋さんが怒られるよー)
どういう反応をしたらいいだろう?
「けどわたし達は宅配便屋さんじゃない」
(当たり前じゃない)
「この箱、見た感じネコたちを入れるには小さめだけど運ぶにしては大きめ。こんな大きさの箱運べるの?」
(だいじょうぶ。そのために下にこの球がついている。押せば簡単に転がるから)
ふうん……
「それでネコを箱の中に入れたその後は?」
(箱ごと職員室に持ち込むの。この箱は『分解スイッチ』でばらばらになっちゃう。そうしたら『ネコ』がいっせいに飛び出すから)
「……その『分解スイッチ』とやら、宅配便の箱に必要なの? まさかあなたが改造して取り付けたとか言わないよね?」
(よく解ったよねーわたしが改造したの)
案の定か。
無駄なところでデキのいいタイプなんだろうか。
(それより、ね、早くこの箱の中にここにいる生き物たちを追い込むのを手伝ってよ)と、まったく悪いことなんて微塵もしようとしていないかのような朗らかな口調でロインが求めてきた。
他人を共犯者に仕立てようとしてるくせに相変わらず邪気のまるで無さそうな笑顔をみせてくれるものよね————そして共犯者をしちゃっているわたし……
いいえ、これはネコたちのため。こんなにかわいいネコたちをこんなどこの星だか分からないところに放して置き去りにしていいはずがない。
わっ、わたしは悪くないはず。ここは宇宙の彼方の見知らぬ星。キャトルミューティレーションされなくても、わたしの方が立場が弱い。この宇宙人ロインの求めに応じない選択肢は無いんだから。
しょうがないんだよ——これは。
わたしの心の中を読めるならロイン、今思ったことを噛み締めなさい。
——とわたしは思ったがロインからの反応はまるで無し。
都合の悪いことは聞かなかったフリか。……まあいい。ネコの回収始めよう。
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