第4話【美少女、『学園長により失われつつある家族のお金』のことを知る】(学園長により失われた家族の金を取り戻すべく)
わたしはなぜネコたちと一緒に宇宙人に誘拐されてしまったのか、未だに解らないでいる。
「まさかあなた、わたしとネコたちを『キャトる』つもりじゃないでしょうね?」わたしは訊いた。
(あなたはネコじゃないです)
「そんなの当たり前でしょ」
(……ネコ。『地球』、とその星の住人達が呼称する惑星の、『英語』という使用頻度大なる言語においてネコのことを『キャット』と表現する……)
なっ……!
「言っときますけど、わたしはそんなみっともないダジャレを言う人じゃありませんから。わたしが言っているのは『わたし達を解剖するつもりか?』って訊いてるのっ」
(誘拐して解剖するなんてどこからそんな想像が涌いてくるのでしょう? もしやあなたには猟奇殺人犯の素養が?)
「ちがーうっ! 日本……いえ、アメリカ? ともかく地球でそういう風に言われてるのっ!」
(それは宇宙人に対するいわれなき差別というもの)
「ちがーうっ! えーと、アメリカの牧場? なんか内蔵とか血の一滴も無くなっている牛さんの死体がごろごろ見つかってしかもその周囲には草まで無くなっているのよ。たしか」
(なんのことだか分からな……ひっっ!)
「どしたの?」
(いまわたしの足がこすられた!)
誰があなたなんかの足をこするのかと視線を落とすと原因はそこにいた。わたし達の足下に。
「おいでー」と言ってひょいっとわたしは『原因』を抱きかかえる。『黒白ぶちちゃん』を。さっきは行っちゃったのになぜか今ごろになってここにいた。
でも宇宙人の足をこするなんて……
(ちょっと止めさせてください! わたしはあなたの言うとおりここに来ているのにー!)
この宇宙人わたしが『こすらせた』とか思ってるわけ?
「あなたはネコのことをなんにも解ってない!」
(えっ? どういうことでしょう?)
「ネコに言うことなんてきかせられるわけがない。そんなことよりあなたはこのネコたちになにをするつもりなの!?」
誘拐の動機については絶対に聞かなくちゃいけない。何か悪巧みをしているっていう雰囲気がプンプンする。ネコたちを誘拐してなにするつもり?
「……まさか食べるつもり?」わたしは訊いた。
(はい?)
「まさか図星なの?」
(あまりにも意表を衝かれたので思考がちょっとばかり飛んだだけですっ。それよりその宇宙生物の生き物を手放してください!)
『宇宙生物の生き物』ってなによ? と思ったがつまらないことなど言いたくもない。しょうがないので『黒白ぶちちゃん』をそっと床の上に降ろした。特にわたしに愛着を持っていてくれるわけでもなくすたすたと仲間のところへ行ってしまった。
本当に気まぐれ。ハア……
さて気を取り直し顔を上げ、
「で、まさかわたしに言わないで済ますつもりなの?」と、話しを本線に戻す。
(やっぱり聞きたいですか?)
なんかこの訊かれ方、引っ掛かる。けど、
「なにを企んでこんなことをしたのか自白してもらわないと」とわたしは言った。
(その前にわたしから渡す物があります)
「なによ?」
(通信機器を持っているでしょう?)
「取り上げるつもりね?」
(とっても意味無いです。欲しくもないし——)、そこまで言って美少女宇宙人は少しだけ間を置く。
(——それにわたし、『渡す物がある』と言ったんです。なにかを取り上げるつもりはありません)と、そこまで言われた。
それでもわたしは逡巡を続けている。
(いいから出してみてください)、と急かされる。
しかたがない。渡さない選択肢は無いんだろう。わたしは言われるままスマホを差し出す。こんなもの持っててもどうせ使えはしない。
(空間時空すっとばし通信ツールっ)、と妙なことばを美少女宇宙人が吐いたと思ったその瞬間スマホの画面がモザイク状の画で埋め尽くされそしてあっという間に元の待ち受け画面に戻った。どういうこと?
(わたしからのせめてもの気持ちです)
なんかヘンなものをインストールされたっぽい。
「なにをしてくれたの?」
(これであなたの星からどれだけ離れても通信が可能になりました。『宇宙人にさらわれてます。助けてください』とか言って助けを求めることもできますよー)
ふざけたことを微笑みながら言ってくれる。
たとえ通報できたとしても宇宙にまで警察が助けに来るわけがない。イタ電扱いされるだけだ。
しかしこの美少女宇宙人の言うことがホントかどうかは確かめたくなる。誰かに掛ければ話しは早い。家族に掛ければいいのだけどたぶん今の時間誰も家にいない。なんだろういったい。わたしは危機的状況に置かれているはずなのに家族に助けを求める気がなぜだか湧いてこない。
わたしはネット接続を試みた。あっさり繋がってしまった。次にわたしは一一七に掛けた。日本のただ今の時刻が案内されている。
宇宙から普通に繋がってる……どうなってるのこれ……?
これは宇宙人から『わたしのことを信じて欲しい』と、メッセージを送られたと、そういうことなの? そんな思索にふけっているといつの間にか美少女宇宙人がわたしの顔を間近でのぞき込んでいた。
(あなたのお顔はとても怖いですね)
は?
「それ宇宙人にまで言われたくないっ!」
わたしがそう言うと美少女宇宙人はためらうように視線を宙にさまよわせ、
(あなたは『なにを企んでこんなことをしたのか自白しなさい』と言いました)と伝えてきた。
「自白する気になったの?」
(人の身の上話というのは話しが長くなるもんですけど、長くなっちゃうが故に怖い人には話しにくいものなのです。あなたには人の話しを聴き続ける忍耐力がありますか?)
宇宙人から『忍耐力』を試されるとは思わなかった。
「あるわよ」、そう言い切ってやった。正直なところわたしに忍耐力があるかどうか怪しいところもあるかもだけど、まあいいか。
(では行きます)美少女宇宙人はまずそれだけ伝えて呼吸を整え、
(わたしの家はお金に困っています)と続けた。
カネ? というかいきなり結論から? そう言えば最初『燃料代がどーとか』言ってたよね。もうSFもなにもあったもんじゃない。宇宙人のくせに金? なによそれ——と思ったところで電光石火に直感が奔った。わたしには解ってしまった。
「さてはあなた、密猟者ね?」
(わたしが?)
「このネコたちを密漁してお金持ちに売って儲けようとしているのよ!」
美少女宇宙人は『うえ〜』という顔をして、
(こんな気持ち悪い生き物、お金になりません)、と言ってのけた。
「気持ち悪いってどーいう意味よ! この可愛らしさが分からないの?」
わたしは床の上あちこちにたむろしてるネコたちを手の平で指し示していた。
(なにか、ぐにゃっ、としてて気持ち悪いです)
確かに地球……というか日本……というかわたしの周りに同じ感想を言う人がいたことはいた……
「それはあなたの個人的価値観じゃないの?」
(違いますです。これは普遍的な価値観です)
「なによ普遍的って! まさか『普通』ってこと?」
(そう、わたし達の星では普通です。ここにいる生き物は残念ながら欲しがられません。したがってお金にもなりません)
だけどそのことば、わたしは額面通り信じない。
「ネコが気持ち悪いってのは宇宙人の感覚なんでしょ? だけど世の中には感性のズレたお金持ちがいるはずよ。そいつらに売るつもりでしょ?」
(だけどそれだと売れるまでわたしが飼うことになりませんか? こんなにたくさん。そういうの無理なんです。拒絶反応が出るんです)
「予め注文取ってからその数だけ密漁すれば飼う必要無いじゃない」
(だけどこの生き物、一匹一匹模様が違ってるじゃないですかー。こういう動物だと人それぞれで個体のえり好みってのがあって数あわせで獲ってくればいいってもんじゃないです。せっかく獲っても選ばれる選ばれないが出てきてしまうって思いませんか?)
そんなの『模様を選んで——』と言おうと思ってブレーキがかかった。この美少女宇宙人は『特定の模様のネコ』だけを選んで誘拐していない。ネコなら手当たり次第という感じで誘拐している。
ここに限っては真実を言った気はする……
しかしわたしは何一つ返事をしていない。それを不満に思ったか美少女宇宙人はまた喋り始める。
(あの『きゃっとふーど』とかいう地球製の餌と同じものをこれだけの数の生き物に与えるのもお金がかかるんです。だからお金の無いわたしには無理)
「ちょっと待ちなさい! なんであなたが『キャットフード』なんて知ってるの!?」
(あなたがこの宇宙生物たちに与えてましたからー。おかげで簡単にたくさん捕まえることができました)
なんてこと。わたし空から宇宙人に見られていたんだ。わたしがネコたちに餌をあげたばっかりに——
(もしもーし、もしもーし、どうしましたー?)
「あっ、いや……」
(だから餌代のこともあるからそう長い間この宇宙生物たちを拘束できないんです。用が済んだらすぐ戻します)
「じゃあお金に困ってることとネコとがどう繋がってくるというの?」
(初めて興味を持ってくれましたね。嬉しいですっ!)
「いや、興味とは少し違うというか……」
(——で、お金がどうして必要かというと、このままだと支払いが滞ってしまうんです。わたし達の家族の生活、益々苦しくなるんです)
「なに? 家族の誰かがギャンブルに狂って借金でも作ったの?」
(違います。学園長に学費を支払わなければならないので生活が苦しいんです。お金は……お金を、これ以上失うわけにはいかないんです)
? ? ? かなり意外な展開で来た。だってここUFOの中だし、UFOの中で学費の話しって、想像する? だけどその顔……つまらない冗談を言ってるわけではなさそう。それはとても深刻で切実のように聞こえた。
「ネコがいるとその問題解決するの?」
(はい……)
なぜ解決するのか理屈はさっぱり見えてこない。しかし美少女宇宙人に抱いていた印象がほんの少しだけ変わりつつある——
「そうか。あなたは真面目なんだね。そんなに勉強したいんだ……」
そんなおかしな事を口走ってた。なぜわたしこんなこと言ってるんだろう。わたし、宇宙人と会話してるのよね? ここUFOの中よね? そのことをすっかり忘れそうになっているわたしが不思議。
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