属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

エミヤ

プロローグ

 ――超能力。


 サイコキネシス。透視。未来予知。数え上げれば切りがない。


 かつては、架空の存在とされてきたものだが、現代においては三人に一人の割合で当たり前に持っているものだ。


 ある者は水を出す能力で消防隊員として働いている。またある者は『瞬間移動』の能力を駆使して、宅配業者として日夜世界中を飛び回っている。


 超能力とは、現代社会を回す大切な歯車の一つなのだ。


 そしてこの俺――あずまかけるも、超能力の一人だ。


 能力は『マインドコントロール』。一見地味な能力に見えるがそんなことはない。自分で言うのも何だが、俺は自分の能力以上に危険な能力は中々ないと思っている。


 『マインドコントロール』は相手に直接触れないと発動しないが、その条件さえ満たせば相手の精神を好きなように操れる。


 相手の精神を破壊したり、何でも言うことを聞く奴隷にすることだってできる。その気になれば、完全犯罪だって可能だ。


 だが、俺はこの能力を悪用したことはない。良識ある両親の元で育てられたおかげだ。


 しかし十八歳になった今日、俺はこれまで使うことのなかったこの能力を開放しようと思う。


 なぜ今まで使うことのなかった能力を使う決意をしたのかというと、理由は三年前に死んだ親父の遺言にある。


 内容は『十八歳になったら嫁を探せ』というものだった。


 当時の俺は意味が分からず、遺言のことをお袋に訊ねた。


 お袋曰く、東家では二十歳までに結婚するのが昔からの仕来たりらしい。


 仕来たりとかいつの時代の話なんだと呆れたものだが、お袋は至って真面目だった。


 どれくらい真面目だったのかと言うと、二十歳までに嫁を見つけてこなければ親子の縁を切ると脅しをかけるくらい。


 もちろん俺は反論した。これは横暴だ、メチャクチャだと。


 たがお袋は考えを改めることなく、今日という日まで月日は流れてしまった。


 そんなわけで、十八歳の誕生日を迎えた俺は今から嫁探しを始めなくてはいけない。


 しかし悲しいことに、俺はこれまで異性とまともに接したことがない。


 俺が接したことがある異性の大半は、画面の向こうから出てこれないシャイな娘ばかりだ。


 試しに画面の向こうの彼女たちを嫁にするとお袋に言ったところ、半日近く説教されてしまった。なぜお袋がキレたのかは、今でも謎だ。


 現実で嫁を探すとなると、正直かなり厳しい。特に三次元の女に興味がないのが致命的だ。


 俺は自分の女の好みが分からない。二次元ならつるぺたロリっ娘が大好きだが、現実でそれは警察沙汰になる。


 そこで俺が思いついたのは『マインドコントロール』の利用だ。


 『マインドコントロール』は他人の精神に作用する能力。相手の人格だって思いのままだ。


 ツンデレ、クーデレ、ヤンデレ、様々な性格にすることができる。俺はこれを属性付与と呼んでいる。


 属性付与を駆使して、色々な性格の女と接することができる。そうすれば、俺はどういった女が好みなのか分かるかもしれない。


 ただ、この計画には一つだけ問題がある。


 それは、嬉々として『マインドコントロール』を受けてくれる女がいないこと。


 まさか勝手に能力を使うわけにもいかない。同意のない他者への能力使用は違法だ。


 となると、俺に残された手段は一つしかない。それは、



「俺に協力してください! お願いします!」



 土下座だ。それも地面に熱いキスをしてしまうほどの。


「死ねば?」


 しかし俺の渾身の土下座は、この部屋の主にはまったく効いてなかった。


「せめてイエスかノウで答えてくれ!」


「もちろんノウよ。ほら、早く死になさい」


「幼馴染のよしみで何とか!」


「なら私、今から幼馴染やめるわ」


 十年近い付き合いになる幼馴染――笹村ささむら愛佳あいかが、残酷な言葉をぶつけてきた。


「何でだよ!? 何がダメなんだ!?」


「いきなり人に性格を変えさせてくれなんて発言、問題しかないじゃない」


「頼むよ! 俺が理想の嫁を探すために協力してくれ!」


 俺の知り合いの中で、唯一の異性であるこいつに断られたら俺に未来はない。


「靴でも何でも舐めるから!」


「それ、絶対にやめてよね? やったら本気で幼馴染の縁を切るから」


「ならどうしろと!?」


 他に俺ができることと言えば、肩揉みくらいしかないぞ!


「大体さ……何で嫁探しなんてするのよ?」


「事情はさっき説明しただろ?」


「聞いた上で言ってるのよ。あんたみたいなバカ、ブサイク、変態の三拍子が揃ったロクでなしのお嫁さんになりたいなんて奇特な人、この世にいるわけないじゃない。ちゃんと現実見なさいよ」


「そこまで言うか」


 ……ちょっと泣きたくなってきた。


「俺は真剣なんだ! 頼むよ愛佳!」


「嫌よ。……というか、何で私なのよ? 他に頼む相手はいないの?」


「いるわけないだろ」


「その辺はちゃんと現実を見てるわけね」


 納得しないでほしい。


「……もし、あんたの好みが分かったらどうするの?」


「好みの女に手当たり次第求婚する」


「ただのクズね」


「うるせえ! こっちは親子の縁がかかってんだよ!」


 なりふり構ってられない!


「はあ……仕方ない。協力してあげるわよ、あんたの自分の好み探しに」


「え、マジで!?」


 一体どういう心境の変化だ?


「ここで断ったら、あんた何をするか分からないじゃない。流石に幼馴染が犯罪者になるのは見過ごせないわ」


「ちょっと待て。お前は俺を何だと思ってるんだ?」


 いきなり犯罪者などと口走る辺り、こいつが普段俺をどういう目で見てるのか気になる。


「そんなことはどうでもいいじゃない」


 どうでもいいの一言で片付けてほしくないが、確かに今話すことでもない。


「それで、お前は本当に協力してくれるんだな?」


「仕方なくだけどね」


 愛佳が重い息を吐く。何だかんだ言いながらもこうして協力してくれる辺り、こいつも人がいいな。


「じゃあ、明日から早速よろしく頼む」


 こうして俺の嫁探しが始まるのだった。


 

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