茉美

 かわいい女の子の具合を見るのに唇は役に立つ。


 「あ、カノン唇乾燥してるよ。」

私は、唇を指さして彼女の唇にいつもの艶がないことを伝えた。

「え、あぁ。」

カノンは、一瞬目に浮かんだ疲れの色をカノン特有の笑顔で打ち消して、ありがとう、といった。私は、それに対し、ぷうと頬をふくらめてみる。

「元気ないじゃん!なんか柄に合わん!」

え、なにどしたの?と、ポニーテールを揺らしてさやかがやって来た。

 

 私たち三人は小学生のころからずっと一緒だ。小学生の頃は、カノンも私たちもあんまり目立たなかった。むしろ地味な方だったと思う。

 カノンは年齢を重ねるにつれ、どんどん愛らしくなり、いつだって私たちを見捨てることなく、手をひいてキラキラ輝く世界に連れ出してくれた。

 

 ツヤツヤとひかるグロスに、甘い香りの香水、夏物の制服から除く細い脚。日の光を浴びて、揺れる髪の毛の光の輪っか。それが、特別な宝物に見えるのはいつだって私たち三人が全員で楽しんでるからだ。もちろん、一人の時間も大事だけど。

 

 最近は、そんな私たちの世界も少しくすんでいる。



 「私、先帰るね。」

カノンはそう言って席を立った。

カノンが帰ってしまうと今まで教室じゅうに散らばっていた、キラキラした粒子が跡形もなく消えてしまったようにかんじた。

 私は、机の上にうつるカーテンの影と、その間からさすオレンジの光の筋を眺めながら言った。

「カノン最近、元気ないよね。」

「うん。」

私は、机から教室の床に伸びるオレンジの光の筋が遮られたのに顔をあげた。

「ねぇ。」

見上げた先には成瀬さんがいた。

「あの、これ」

成瀬さんは、鞄のなかに手を入れて、スマホを取り出す。成瀬さんの動作はほんのちょっとしたことでも、美術品みたいに綺麗だ。

「これ、春田さんじゃない?」

ずい、とつきだされたスマホを受け取り、そこに表示された画像を二人で覗いた。そこには見覚えのある軽く内巻きにした色素の薄い髪と、うちの制服の胸元をだらしなくはだけさせた少女が写っていて、はだけて制服の隙間から肌がのぞいていた。私は、さっとサイト名を読む。

 

 「それだけ。じゃあね。」

成瀬さんは、スッとスマホを私の手から抜き取り、ひらりとスカートの裾をひるがえして行ってしまった。

 見せられた画像は間違えなくカノンのもので、あんな写真でもカノンは相変わらずキラキラしてて、私の大切な友達が低俗な人たちの目に晒されているのがたまらなく気持ち悪かった。

 さやかは、自分の上履きの先をじっと見つめていた。 





 家に帰った私は、ベッドに寝そべり、カノンが写真を投稿しているサイトを開いた。


 私は、自撮りカメラをのぞきこむ。

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