第3話 聖「空気」

 ヨー子さんは、私の母ともすぐに仲良くなり、母が出張するときなどは、ヨー子さんが泊まってくれたりもした。

 ヨー子さんは、ふらりとどこかへ行って2週間ほど帰ってこないことがある。ヨー子さんのいない部屋のなかは、どこか物足りないような一方で、たとえヨー子さんがいなくても、ヨー子さんがそこにいるような気もした。

 ヨー子さんは、私の人生を大きく変えるような大きな印象をどすん!と与える訳ではなかったが、ヨー子さんの空気は確実に私の人生にじわじわと侵食し、私はそれを心地よく思う。


 3度目の冬になった頃、ヨー子さんが連絡もなく私のいえにやって来た。

「お泊まりに来ちゃった。」

ヨー子さんによると、ここ一週間、元恋人の男の人が度々訪ねてきては、彼女の日常を壊していくのだそう。彼女によると、自分の考えを取り入れさせようとお説教をする男は嫌いなんだとか。

 私は、ヨー子さんがここを逃げ場に選んでくれたのをとても嬉しく思った。

 帰り際、ヨー子さんは聖のとこは、心地いいねぇ、と苦笑したから私は「いつでも帰ってきて」と伝えたが、ヨー子さんは少し寂しそうに笑って、「帰るのは家だよ、またね。かわいこちゃん。」と、手を降った。


 ヨー子さんが、交通事故にあって亡くなったのは、その一週間後だった。


 お葬式も行ったけど、横たわったヨー子さんは、相変わらずかわいらしくて、死んだフリをして私を驚かそうとしているだけのように見えた。



 ヨー子さんがプレゼントしてくれた写真に、私の頭の中に、それから私の部屋に。私の周りのものすべてにヨー子さんの空気は散りばめられていて私は、いつヨー子さんが訪ねてきてもいいように、二人用のクッションを用意し、部屋を清潔にたもっていた。


そして、相変わらず3日に一度は、ヨー子さんの撮った新しい写真の投稿がないか探しにサイトにログインしていた。


「あ。」

見覚えのある制服と、ふわりと丸まった明るい毛先を見つけ私の口から小さく声が漏れる。

その子が撮るには向かないような写真だったから。

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