第2話 聖﹙ひじり﹚

 私の友達に、ヨー子さんという女性がいた。

 ヨー子さんは、天真爛漫で、かわいらしくて、だけど、変に頑固で変わったところのある人で、また、男の人にはモテたけど、女の人にはモテないようだった。一度、私が誤って持ち帰ってしまったヨー子さんの携帯電話を、放課後、会社に届けに行ったときに「妹さんかしら。忘れ物を届けさせるなんていい御身分ね、そのうち、足が疲れたからとかなんとか言ってどっかの男でも呼びつけるんじゃない?」

という陰口を聞いた。

 最も、本人は全く気にしていないようだったけど。

 

 そんなヨー子さんと私が出会ったのは、朝の電車のなかだった。

 その日は、空を灰色の雲がおおい、ジトジトと雨がふっていて、私は、ぼぉっと窓の外を眺めていて、テンポのいい足音を聞くまで彼女に気が付かなかった。

 足音の主、もといヨー子さんは、振り返った私と目が合うと、ツカツカとこちらに歩みより、私の手首を掴んで、

「来て!」

と言った。目が小さい子みたいにキラキラしてた。私はヨー子さんに手を引かれるままついていった。なぜ私がヨー子さんについて行ったのかは、未だにわかっていない。

 その日、私たちが何をしたかはああまり覚えていないけど、ヨー子さんの履く赤いピンヒールの赤が灰色の町の中でもひときわ目立っていて、気がついたら私はヨー子さんの被写体になっていた。

 その日から、学校の日を除く雨の日は、ヨー子さんに撮られに行くようになった。

 ヨー子さんは、雨の日の休日の朝は大抵、あの電車のなかにいたから。

 ヨー子さんは、私の写真を撮ってはプレゼントしてくれた。

 梅雨が明けて夏がきても私たちはよく会った。

 夏休みは、二度、ヨー子さんと川へ行き、一度、ヨー子さんと彼女を助けようとした私も川に落ち、四度、映画を観に行き、三度、食事を一緒にとった。

 私たちは、連絡先を交換し、私はヨー子さんが写真を投稿しているというサイトに3日に一度はログインした。

私の写真がないのにホッとしたような少し寂しいようなきもちになった。

 ヨー子さんは、靴をたくさん持っていた。服装は特別派手な訳でもなかったから、彼女の靴﹙赤や黄、青、黒、白、緑、低いものや、高いもの﹚はとても目立ってたように感じる。

 

 ヨー子さんは、私が今まに、会ったことのある誰とも似ていなかったし、私とは気が合ったと思う。

 それなのに、ヨー子さんとの時間を私が数字を使ってでしか説明できないのは、きっとヨー子さんが私の空気の一部になってしまったからだとおもう。

 ヨー子さんは、いつも私の道を、目立つ靴を履いて示していて、にっこりと笑っているのがあたりまえであるような感覚になりつつあるからだとおもう。いつの間にか、私の頭の中には、常にヨー子さんの空気がふわふわと漂うようになっていた。

ヨー子さんが、私の家に訪ねてくるようになってからは、私の周りをとりまくヨー子さんの空気はますます濃さを増していた。

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