第2話 黄昏
衣雪通りから少し裏の路地に入ったところに、そのお店はある。【わかなや】という名前のお店。ソフトクリームからぜんざいまで色々ある。安いので夏休みに入ると小学生から大人までいる。
私のお気に入りは、ところてんだ。絶妙な酸っぱさがたまらなく美味しいのだ。今も部活の帰りに寄って食べている。夕暮れ時のお店は夕日が射し込んでとても綺麗なのだ。いつもはもっとお客さんが多いが、今日に限って誰もいなかった。
「あきちゃん。かき氷どう?」
店主のおばちゃんだ。部活帰りに食べに行くといつもサービスで色々付けてくれる。みんなに優しくて、私は好きだ。
「あ〜今日はちょっと…ごめんなさい…」
もうすぐ大会があるからいっぱい食べた方がいいのに、何故か今日は食べる気がおきなかった。それどころか、段々早く帰りたいと思い始めた。
何故かはわからない。けれど夕日の射し込んだ色、おばちゃんの声、食べたところてん、椅子の配置、カラスの鳴き声、全てにおいて恐怖を感じていた。何も変わらないのに、何も見えないのに、なにかがおかしい。
ふと、朝クラスの子が話していたことを思い出した。
「わかなやのおばちゃん、ぎっくり腰で入院だって〜」
「えっじゃあお店は?」
「当分お休みだってさ〜」
そうだ、今日は休みになっているはずだ。休みのはずなのに、なんでやっているの。入院は嘘だったの。そもそも、ここにいる人は誰なの。
「おばちゃん…」
「なぁに?」
私は声を絞り出して聞いた。
「おばちゃん、今日入院してるんじゃないの…?」
その時、おばちゃんの顔をよく見ることが出来なかった。
少し沈黙があって、おばちゃんは口を開いた。
「アあ、バレちゃッたねェ」
あの後、お金だけ置いて走って帰ってきた。外に出たらもう真っ暗になっていて、腕時計を見ると3時間も経っていた。帰りが遅くて、お母さんにはものすごく怒られた。
それ以来、あのお店にはいけてない。
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