第21話 女の業

「何ポーっとしてんだよ」

 マコ姐さんが私の顔を覗き込んだ。私たちはいつものように風に吹かれながら、屋上で煙草をふかしていた。

「べ、別に」

「男だな」

「えっ?」

「男だな」

 マコ姐さんは、いやらしい目で、私を覗き込む。

「ち、違いますよ」

「どんな男なんだよ」

「ええっ」

「顔がにやけてるぞ」

「・・すごくやさしいんです。すごくかっこよくて、よくできたきれいな人形みたいなんです」

「ふ~ん」

 マコ姐さんはなおもいやらしい目で私を見続ける。

「あんな人もいるんですね」

「ついにお前も、女の道を歩き始めたか」

「なんですかそれ」

「まあ、今に分かる」

「私は違いますよ。こう、純粋な・・」

「ふふふっ」

「ホントですよ」

「はははっ」

「もうっ」

「まあ、そう怒るな。あたしも良い子に出会ったんだよ」

「またホストですか」

「これがまた良い子なんだよ」

 マコ姐さんは嬉しそうに私を見た。

「凝りませんね」

「お前もしっかりホストにはまってんじゃねぇか」

「あの人は違いますよ。真剣に私のことを想ってくれてるんです。っていうかなんで分かったんですか!」

 私は驚いてマコ姐さんを見た。

「まあ、大体分かるんだよ。この年になるとな」

 マコ姐さんはだるそうに煙草の煙を風に乗せるように吐き出した。

「細井聖人・・」

「えっ!なんでそんなことまで分かるんですか」

 私は更に驚いた。

「あいつはやめとけ」

 マコ姐さんが呟くように言った。

「なんでですか」

「・・・」

 マコ姐さんはそれには答えず、黙っていた。

「とっても良い人なんです。すっごく純情で、やさしくて、カッコ良くて・・」

「まあ、いい。ホストにはまるのもな。でもあいつだけはやめとけ」

「なんでですか」

 私はむきになって言った。

「何人も自殺してんだよ」

「誰がですか」

「付き合ってた女だよ」

「えっ!」

「あいつはホント禄でもない男なんだよ。一応騙される女も女だし、ホストと付き合うっていうのはそういうことなんだけど、あいつはそういう一線を越えてる。だからやめとけ」

「・・・」

「あいつだけはやめとけ」

 いつにない厳しい目でマコ姐さんは私を見た。

「・・、あの人は・・、違います。私にはとてもやさしいんです」

「みんなそう思うんだよ」

「田舎出身で純情なんです」

「あいつは思いっきり都会育ちだぞ」

「えっ!」

 私は、恥ずかしそうに頬を赤らめる細井さんの姿を思い浮かべた。

「まだホストも始めたばっかりだって・・」

「あいつは十六から、もういっぱしのホストだよ」

「えっ!・・」

 あの細井さんが・・。

「でも、純情でホントに良い人なんです。多分何か誤解があるんだと思います」

「・・・」

 マコ姐さんは黙っていた。

「まあ、それが女の業なのかもな・・」

 マコ姐さんは遠く、街の夜景を見つめながら、まただるそうに煙草の煙を風になびかせた。

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