第22話 ホストクラブ

「私怖いんです。最近、なんか誰かに付きまとわれてる感じがあって・・」

 私は今日も細井さんのお店にいた。

「でも、気のせいかもしれない。私がおかしいのかも・・、」

 細井さんはそんな私の話を、やっぱりあの誠実な目をして聞いてくれている。

「私、疲れてるのかもしれない・・」

 なんだか最近私は精神的に不安定だった。

「ごめんなさい。こんな話・・」

「構いません。僕で良ければ、話を聞きます」

 やはり細井さんはやさしかった。 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 細井さんがお酒を作って私に勧めてくれる。

「お兄ちゃん、死んじゃったんだ」

「お兄さんが?」

「うん、殺されたの」

「・・・」

「私、なんだか疲れちゃったよ。親父は飲んだくれだし、母さんはおかしくなっちゃうし」

「・・・」

「私、何話してんだろう」

 私は急に恥ずかしくなった。でも、なんだか細井さんになら何でも話ができた。

「私・・」

「僕が守ってあげます」

「えっ」

「僕があなたを守ります」

 細井さんは、やさしく私の肩にそっと手を回した。それはとても自然で温かかった。私は細井さんのそのやさしい胸の中に身を預けた。

「僕があなたを守ります」

 もう私は、温かいバターのように、溶けてなくなってしまいそうだった。


「ホント最近付き合い悪くなったよな」

 私は連日連夜、細井さんのところへ通っていた。

「まっ、女の友情なんてそんなもんだよな」

 マコ姐さんは、煙草の煙をゆっくりと吐き出した。私たちはいつものように、屋上で煙草をふかしていた。

「マコ姐さんだって、良い人見つけたって、その人のお店に入り浸ってるじゃないですか」

「うん、まあな」

 季節も春から夏に変わろうとしていた。少し火照った体に、ビルの屋上に吹く風が心地良かった。

「ところでお前金大丈夫なのかよ。借金あるんだろ」

「・・・」

 私は細井さんにお金をつぎ込んでいた。ホストクラブはすぐに、何十万、何百万というお金が飛んでいく。

 しかし、細井さんが喜ぶ顔が見たくて、ついつい高いお酒を頼んでしまう。クラブにツケも大分溜まり始めていた。

「あたしが言うのもなんだけど、ほどほどにしとけよ。ほんと、破滅するぞ。ホストってとこは。特にお前はまだうぶだから」

「・・・」

 私は夜空にぽっかりと浮かぶ満月を見上げた。それは怪しく、くすむように光り輝いていた。

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