第18話 嫌なことばかり
「ほんと、腹立ちますね」
警察署から出てきた私は、呆れるやら、頭に来るやらで、ひどく興奮していた。
「何か起こってからじゃないと動けませんて、何か起こってからじゃ遅いでしょ」
「まあ、警察なんてあんなもんだな。結局」
一緒についてきてくれたマコ姐さんも呆れ顔だ。
「自分の身は自分で守りなさいってことだな。あの口調では」
応対した警察官は、はっきりとは言わなかったが、結局趣旨としてはそんなことを言っていた。
「それができないから相談してるんじゃないですか。まったく」
私の怒りは収まらなかった。
「あなたの気のせいかもしれないでしょって、なんだか私が心の病気みたいな言い方して。ほんと腹立つ」
私は、応対した脂ぎった色黒の太った中年男性警察官の顔を思い出していた。
「確かに感じるんですよ。うまく言えないんですが・・」
しかし、信じてもらえなかったことで、私もなんだか自信がなくなって来ていた。
「あたしはお前を信じるよ」
「マコ姐さん」
私はマコ姐さんを見た。
「あたしが守ってやるから、心配すんな」
「はい」
「なに涙ぐんでんだよ」
私はもう、泣きそうだった。
「だって」
私は笑いながら泣いた。
「お前はいつも深刻に考え過ぎなんだよ」
そう言って、マコ姐さんは笑いながら私の肩を抱いた。
「ねえ、君、お金に困ってたよね」
マコ姐さんと別れた後、もう日課になってしまった給料の前借りのため、私が浅野企画の事務所に寄った時だった。ぶしつけに事務所の男が話しかけてきた。いつも事務所の奥の方の机に座っている、ぶよぶよに太った、禿げたとっつぁん坊やみたいな男だった。
「は、はあ」
私はいぶかし気な目でその男を見た。ぶよぶよの肌は病的に色白で、ただでさえ気味の悪い容姿が更に薄気味悪く見えた。
「AV出てみない」
男はいきなり言った。
「出ませんよ」
何言ってんだ。と、私は思った。
「君、まだ十代だったよね」
「はい」
「これ出すって言ってんだよね」
男は右手の親指と人差し指で丸を作って、下卑た笑いを私に向けた。
「誰がですか」
「君のこと気に入ったって人がいてさ」
「だから誰なんですか」
「まあ、それはいいじゃない。とりあえずまとまった額出すって言ってるんだよ。よかったら会ってみない?」
「会いません」
私ははっきりきっぱりと言った。
「まあ、そう言わず、考えるだけ考えといてよ」
男はそれでも引き下がらなかった。
「考えません」
「こんないい話ないんだよ。ほんと、すごい額なんだよ」
「出ません」
「昔はAV出れば家が建つって言われてたけど、今AVなんて昔と違って出たい子いっぱいいるから、相場ものすごく下がっちゃってんのよ。ほんとバイトみたいな安い金で出てる子なんていっぱいいるんだよ。こんな額出すなんてめったにないんだよ」
男は力説する。
「出ません」
私は男を無視してさっさと、事務所を後にした。
「全く・・」
全く今日は腹の立つことばかりだ。
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