第2話 アルバイト

 私は早速アルバイトを始めた。父は相変わらずアル中でダメ親父だったし、母もまだあの怪しげな教祖様に入魂で精神薬を山ほど飲んでいた。私は自分の家を支えなければならなかったし、カティの家族にも仕送りしなければならなかった。

 高校中退の私を雇ってくれるところは限られていた。スーパーのレジ打ちから、皿洗いまで、時給が高い順にとりあえず雇ってくれる仕事を掛け持ちしながら、家を支え、毎月十万円をカティの家族に仕送りした。

「あっ」

 ある日、突然家中の電気が消えた。

「停電?」

 しかし、何かがおかしい。

「遂に止まったか」

 父が、奥の部屋からのそのそと起きだしてきた。

「止まる?」

「電力会社も鬼やのぉ~」

「何言ってんだよ?」

「止められたんだよ」

「止められた?」

「電気を止められたんだよ」

「なんで電気止められんだよ」

「そりゃあ金払ってないからだよ」

「何ぃ!」

 うちは半年以上も電気料金を滞納していた。

 私は更にバイトを増やした。


 ピンポ~ン、ピンポ~ン

 ある日、玄関のチャイムが鳴った。しかし、何かがおかしい。必要以上に連打され、そこにはどこか怒りと憎しみと凶暴さが宿っていた。

「はい?」

「はい?じゃねぇよ」

 私が玄関を開けると、明らかにそっち系の方々が、玄関の前で眉間に皺を寄せ立っていた。

「金はいつ返してくれるんだよ」

「はい?」

「だから、はい?じゃねえんだよ」

 私はいつものように居間で飲んだくれて、ナイター見ながらゴロゴロしている親父の元へ走った。

「何で借金取りが来るんだよ」

「そらぁ、金借りたからだよ」

「何ぃ!」

「何で金なんか借りたんだよ」

「そりゃ、働いてないからだよ」

 親父は当たり前みたいに言った。

「じゃあ、働けよ」

 親父は直ぐに聞こえない振りをしてどっかへ去って行った。

 私は更にバイトを増やした。

 ある日、バイトから帰ってくると国際郵便がポストに入っていた。中を開けてみると、カティの家族からだった。

(お金が足りません。もっと送ってください)

「・・・」

 私は更にバイトを増やした。


「ふぅ~」

 今日も私は朝まで道路工事の現場に立ち続けなければならない。私は昼の仕事にプラスして深夜の警備員の仕事も始めた。もう普通のバイトでは追い付かず、私は男に交じって肉体労働を始めていた。

「おいっ、愛美じゃね」

 一台のスポーツカーが私の立っている脇に止まり、その運転席から高校の同級生だった晃が顔をのぞかせた。

「い、いえ、違います」

 私はかぶっていたヘルメットを目深にし、声色を変えた。晃は私の顔を何度も覗きこみ首を傾げた。

「愛美だと思ったんだけどな」

「違うよ、愛美がこんなとこで警備員なんかやってるわけないじゃん」

 助手席には、これまた同級生の朋美が乗っていた。晃はもう一度私の顔を覗き込み、何度も首を傾げながら去って行った。

「ふーっ、危なかったぜ」

 私は晃が去って行った先の暗闇に浮かび上がるように小さく光る赤いテールランプを見つめた。

「・・・」

 同級生たちはみな高校を普通に卒業し、それぞれ当たり前の普通の人生を歩んでいるのだ。

「私はいったい何をしているのだろう・・」

 私はなんだか自分が一人だけ取り残されているような寂しさにも似た劣等感を感じた。

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