神様は明後日帰る 第4章(帰郷篇)

ロッドユール

第1話 久々の我が家

「帰ったぜ」

 一年ぶりの我が家だった。

「なんじゃこりゃ!」

 家の敷地いっぱいにゴミが溢れている。

「・・・」

 家はゴミ屋敷になっていた。ふと見ると、学校帰りの小学生が普通に、買い食いしたゴミをポイポイ家の敷地内に投げている。

「コラッ」

 私が叫ぶと、小学生はわっと叫び、走って逃げて行った。

「まったく・・、あっ」

 振り向くと今度は私の後ろで、近所のおばはんが自分家の家庭ゴミを捨てようとていた。

「コラーッ」

 私が叫ぶと、おばはんはゴミを投げ置いて、自転車をかっ飛ばして逃げて行った。

 家の中に入ると、いたるところ所狭しと弁当の空き箱が積み上がっていた。

「なぜ、全部篠屋のカツ弁当なんだ・・」

 いや、そんな事はどうでもいい。なんなんだこれは。私はこの惨状を眺めつつ、ずんずん家の奥へと入って行った。

「わあっ」

 居間に辿り着いた私は、思わず声を上げた。篠屋のカツ弁当の空き箱でそこは寸分の隙間も無く、私の胸の高さまできっちり埋まっていた。

「ゴミが散乱しているわりに、弁当の箱はきっちり積み上がっている・・」

 そのアンバランスさがまた不気味だった。

「ん?」

 その時、部屋の中央部分の弁当箱がガサガサと動き出した。それを私が何事かと見ていると、突如として弁当箱が噴火したマグマのように中空に吹き上がった。

「わあー」

 私は驚いてのけぞった。更にそれと同時にその中央辺りから、何か巨大な生物が踊り出て来た。

「うをぉー」 

 私は目茶無茶びっくりして目を剥いた。

「ん?」

 しかし、よく見るとそれは父だった。

「何やってんだよ」

「おうっ」

「おうっ、じゃねぇよ。なんだよこれ」

「何って、弁当の空き箱だよ」

「毎日毎日篠屋カツ弁当食ってたのか」

「ああ」

「他にもあるだろう。のり弁とか唐揚げ弁当とか。っていうかそんな事じゃない。もっとなんか、基本的な、なんかちゃんとした生活をしろ」

「ちゃんと飯食ってただろう。カツを食って筋肉も付けたし」

「カツ食ってるだけで筋肉が付くか。バカ」

 と、その時、私は母の事が猛烈に心配になった。

「母さんは」

「いるよ」

「そんな事は分かっとる」

 もう、こいつと話しても埒が明かないと、父を置いて私は家の奥へと母を捜しに行った。

「母さん、母さん」

 母は奥の仏間にいた。

「かあさ、うわっ、なんじゃこりゃ」

 そこにはバカでかい金ぴかで派手派手な仏壇が巨大にそびえ立っていた。中央に鎮座する仏像の背後では、怪しげな夜の街のネオンの如く、後光がカラフルなフル電飾でピカピカと点滅していた。

「どうしたの・・、これ?」

 しばし圧倒されていた私はやっと我に返って訊いた。

「買った」

「買った!」

 山田さんの顔が浮かんだ。

「しかし、よくこんなの家に入ったな・・」

 仏壇は見れば見る程巨大だった。

「これ・・」

 さすがに値段を聞く勇気は無かった。

 母は私が久しぶりに帰ってきたというのに、私など無視して一心不乱に仏壇に向かって何事かぶつぶつと手を合わせ祈り続けている。

「・・・」

 でも、そのことよりも旅に出る前より、小さくなった母の背中がなんだか悲しかった。

「母さん・・」

 そんな小さな母の背中を見ているとなんだか切なくて、堪らなく涙が溢れてきた。

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