第82話

 決行日時は、7月10日。理由は、満月の日にちでなくて、土曜日だったため。

 小学生である友里は、平日に時間をとることが出来ない。日が出ているうちに、全てを終えるつもりだ。


 7月9日の夜。

 友里は、もしもの時のために、遺書を書いた。


 死ぬつもりは、ない。

 けれども、何事も100%は存在しない。


 書いた内容は、自分の口座番号と、暗証番号。それ以外に何を書くべきかと数分迷った友里だったが、結局、養ってもらったことのお礼だけを書いて、封筒に入れ、机の一番見えやすいところに置いておく。


_______準備は、これで大丈夫。ノートパソコンの充電と携帯電話の充電は済ませた。持っていくものの整理と整備はすでに終わらせた。


 そう判断した友里は、窓の外を見る。


 半月というには痩せ気味の月が、空に浮かんでいる。眩しい夜の明かりにかきけされ、星はパラパラとしか見えていなかった。


_______5時間仮眠してから、日の出よりも少し前にここを出る。で、すぐにショッピングモールに行く。


 ベッドに横たわり、友里は目をきつく閉じる。


 鼓動が一定のリズムを刻みながら、友里を眠りへと誘っていった。


 ◇◆◇


 朝早く、日が昇った直後に一台のトラックが上里町のショッピングモールへとエンジンをふかす。


 北の棟で止まったトラックに、抜き身のナイフを手にもった吸血鬼が眠そうに声をかける。


「よお!今日は早番か。」

「ああ。くそねみいよ。早く日陰に入って寝たい。」


 吸血鬼のドライバーは眠そうに目を擦りながら、ナイフを持った吸血鬼に言う。

 ナイフを持った吸血鬼は、「だよな。」と笑い、段ボールに入った荷物をトラックから下ろしていく。


 運ぶ場所はもちろん、北の棟の冷凍室。


 運び込まれる段ボールに紛れ、前回とまったく同じ手口で、友里はショッピングモールへの侵入を果たした。


 いや、まったく、ではない。


 友里の隣に名無しの姿は、なかった。


_______名無しさん。私は、一人で復讐を終えるよ。


 寒い冷凍室で暖をとるため用意した、赤いマフラーを首と顔に巻き直し、友里は段ボールの中から出る。


「だから………」


 弓に弦を張りつつ、友里は小さく呟く。


_______復讐が終ったあと、また、一緒にいよう。生き返った後に、一緒に喋ろう。笑おう。



 7月10日 午前5時0分。

 友里が、上里町のショッピングモールに侵入。

 警察の特殊部隊の突入まで、あと30分。

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