第81話
友里は、日々自らを磨り減らすように過ごし、7月7日をむかえた。
図書館は、まだ小学校が終った直後ということもあり、人はほとんど居なかった。
図書館の二階へと上がった友里は、まだ待ち合わせの時間まで少しあるため、目についた薄いペーパーバックの小説を本棚から適当に抜き取った
開いてみれば、どうやら、主人公が復讐をしようとする親友を止めるという話のようだった。
物語の終盤、主人公が親友に叫ぶ。
『そんなことをしたところで、お前の妹は喜ばないはずだ!』
その言葉に、親友は泣き笑いを浮かべながら、言う。
『もう、おせえよ!後は、奴が死ぬのを待つだけなんだよ!』
結局、主人公が親友の復讐をとめ、親友は殺人未遂の容疑で逮捕され、主人公が親友の妹の墓参りをしたところで、話は終った。
友里は、本を本棚に戻しながら、考える。
_______『復讐に意味がない』なんて、詭弁だ。少なからず、本人には確かに意味があるのだから。
目を深く閉じ、息をすいこみ、吐きだす。
肺の空気をあらかた吐き出したところで、友里は目を開く。
_______私は、家族を、お父さんを、お母さんを、兄さんを殺した吸血鬼を殺す。許さないし、許せない。私の意思で、私の手で、確実に殺す。
窓から差し込む優しいオレンジの日差しが、友里の長い髪の毛を温かく照らし出す。
息を吸い込んで、友里は、ポツリと呟いた。
「だから_______」
_______名無しさんを、私の復讐に巻き込むべきではない。巻き込んでは、いけない。
決意した友里は、後ろを振り返る。
そこには、名無しが申し訳なさそうに立っていた。
「すまない。遅刻した。」
そう謝罪する名無しは、友里は短く言う。
「大丈夫。」
時計の秒針が、数秒、ほんの数秒だけ遅れだし、だんだんと、少しずつ、時計は狂っていく。
狂って、いった。
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