第39話

 退屈な休日も終わり、授業が始まる。


 現場検証のため、いつもの教室とは違い、図書室での授業だった。


 友里の周囲はいつもとは異なる環境での授業で少しばかり浮き足立つ。

 光國もどこか周囲をキョロキョロと見回し、集中できている雰囲気ではない。


 友里はいつも通り、本を開く。


 美咲先生もいつもとは違う環境に、やや手間取りつつも、授業が始まった。


 国語の授業も長針があと90度ほど曲がれば終わるという、その時。


 コンコン


 図書室の扉がノックされる。

 美咲先生は一時的に授業を中断すると、扉を開ける。


 扉の外には、友里が数日前にあった人物、阿笠蒼馬ともう一人が、十字架のネックレスとかっちりとした背広姿で立っていた。


 今の阿笠は、背広で腰に日本刀をさしており、なんともちぐはぐとした印象だ。


 その阿笠の前にたっている男性も、白髪混じりの頭であるにも関わらず肌にはツヤとハリがあり、背筋もしゃんと伸びているため、今一つ年齢がつかめない。


 白髪混じりの男性が、美咲先生に一言、二言何かを伝える。


 美咲先生は頷くと、


「秋田 友里さん。ちょっとこちらへ。」


 と、友里の事を呼ぶ。

 友里は本に栞を挟み、扉の方へ向かう。

 美咲先生は、友里の肩に手を置くと、


「彼女が友里さんですが、何かあったのですか?」


 と、白髪混じりの男性に聞く。

 白髪混じりの男性は優しげな瞳でじっと友里を見つめ、口を開いた。


「秋田さん、貴女に聞きたいことがあるのですが、今からいいでしょうか?」

「今は授業中。昼休みならいい。」


 友里は、白髪混じりの男性のやや茶色がかった瞳を一瞥してから答える。

 白髪混じりの男性は、少しだけ驚いたような顔をしてから、「そうか。」と呟き、阿笠を置いてその場から離れていく。


 阿笠は、苦虫を噛み潰したような表情をして白髪混じりの男性を見送り、友里に「昼休みに、君の教室に来てくれ。」と言うと、美咲に一礼し、半ば駆け足で白髪混じりの男性を追いかける。


 美咲は少しだけ眉を寄せてから、授業に戻る。

 友里も、席に戻ると、栞を挟んだページを開く。


 ◇◆◇


「ちょっと、伊東さん!!何をやっているのですか!」


 白髪混じりの男性、伊東の側へ駆け寄った阿笠が切羽詰まった声で聞く。


「授業中に呼び出すなんて、非常識ですよ!」

「ふむ、小学校に刀をさして来ている君に常識を問われるとは……」

「仕方がないじゃないですか!」


 伊東は、「冗談だ」と言う。阿笠は頭を抱えると、もう一度同じ質問をする。


「何で授業中に秋田さんを呼び出したのですか?」

「少女の授業態度を知りたくてね。」


 伊東は悪びれもせずにそう答える。


「いやはや、面白い子だね。授業中に本を読んでいるにも関わらず、授業中だから、という理由で事情聴取を断るだなんて。」

「伊東さん、教職員に文句を言われても俺は知りませんからね。始末書はご自身で書いてください。」


 伊東は少しだけ驚いたという表情をしてから聞く。


「阿笠よ、書いてくれんのか?」

「書きません。」


 阿笠は、何のためらいもなく答えた。

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