第38話

 土曜日。

 友里は、叔父の俊彦に話しかける。


「叔父さん。上里町に行くことは、できませんか?」

「……上里町に、行きたいのか?」

「はい。」


 俊彦は、しばらく顔をしかめたあと、口を開く。


「残念だけれども、上里町はいま、吸血鬼がたくさんいるらしくてね。危ないから行くことができないのだ。」

「そうですか。」


 友里は、少しだけ眉を下げて目を閉じる。


「では、小学生2年生でも参加できる弓道場はありませんか?」

「調べておこう。」


 友里は俊彦に礼を言うと、部屋に戻る。

 そして、部屋の掃除を始めた。


 友里は、掃除が苦手だ。

 ものを整理整頓することはできるのだが、ものを元の場所に戻さずに次の事を初めてしまうため、片付けが追い付かないのだ。


 地べたに置きっぱなしにしていた本を拾い、元々あった場所に戻す。

 中身の少ないクローゼットを整頓し、机の上にハタキをかける。

 箒を借りて床を掃き、雑巾で床を水拭きする。


 それだけで、部屋は見違えるようにきれいになった。


 ある程度綺麗になったところで、友里は床の上に寝転んだ。


 フローリングが固く、背中と頭が痛い。

 友里は目を閉じ、考える。


_____私は、何をしたいのか。


 出来るなら、家に、上里町に帰りたい。

 しかし、それは、今はできない。吸血鬼が多数いるのが理由だ。


 取り戻せない『いつも通り』を望んでは、空しくなって諦める。


 何度かその行為を繰り返し、友里は、目を開けた。

 LED電球のつけられた天井が見える。

 友里は、その場から立ち上がり、体を伸ばす。


_____外に、出よう。


 友里は叔母の由紀子に声をかけてから運動靴をはき、携帯電話と小銭入れだけをもって外に出る。


 ◇◆◇


「蒼馬、この資料に書いてある、『秋田 友里』という少女、いったい、何者だ?」


 白髪混じりの男性は、阿笠に声をかける。

 阿笠は、パソコンから目を離すと、白髪混じりの男性の質問に答える。


「ああ、上里町事件の被害者ですね。彼女を残して一家全滅したらしいですよ。」

「ほう……。しかし、混血とはいえ、男の吸血鬼に一撃を加えるとは……。」


 報告書を眺めながら、白髪混じりの男性は呟く。


「明後日、検証作業がありますし、そこで話しかけて見たらどうでしょう?」

「なるほど。良いかもしれんな。」


 白髪混じりの男性……伊東いとう はじめは、口元をにやつかせながら、そう言った。

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