第25話

 友里は、本を読むようになった。


 事件から、目をそらすために。記憶を封じ込めるために。


 また、聴覚のほうも、集中さえすれば聞き取れるようになった。

 レインコートの吸血鬼、名無しと再開した影響なのか読書の影響かはわからない。

 しかし、その事実は友里を退院させるには十分だったらしい。


 友里は、父方の叔父、秋田 俊彦としひこの一家に引き取られることになった。



 ◇◆◇


「ここが、君の新しい家だ。」


 俊彦がそう言って友里を乗せた軽自動車を止める。

 病院から車で10分37秒。三階建ての立派な一軒家。そこが俊彦の家らしい。

 それなりの広さの庭には小さな木のブランコが設置してある。玄関付近には、自転車が二台。


 中にはいれば、掃除の行き届いた、きれいな玄関。飾り棚の上にはお洒落な調度品がセンスよく並べてある。

 統一感のある調度品は叔母、秋田 由紀子ゆきこの趣味らしい。


「これからは、私たちが君の家族だ。よろしくな。」


 少ない手荷物を運び終えた俊彦は、友里にそう言う。友里は曖昧に微笑んだ。


____家族は、もういない。私の、せいで。


 ◇◆◇


 翌日から、友里はこの町の小学校、下里小学校に通うことになっている。


 もとは叔父の書斎だったという部屋のベッドに寝転んだ友里は、真新しいピンク色のランドセルを撫でる。


 持っていたランドセルは、火事で焦げて使い物にならなくなった上に、兄、勇介の血液が付着しているということで、警察に持っていかれてしまった。


 そのうちかえって来るらしいが、いつになるかはわからないため、叔母が買ってくれたのだ。


 ____せめて、迷惑をかけないようにしよう。


 友里はそう心に決めて、目を閉じた。

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