第22話

「…………。」

「…………。」


 友里とレインコートを着た吸血鬼は、黙って焦げた道を歩き続ける。

 言葉は交わさない。ただただ沈黙を貫き、歩みを続けている。


◇◆◇


 隣町、『下里町』の看板が、友里の目に入った。

 あれほど焦がれていた隣町。

 けれども、友里は何も感じなかった。もう、死んでしまっていたのだ。心と、感情が。


 惰性のまま、足を進める。

 その時、レインコートの吸血鬼が口を開いた。


「俺は、お前に命を救われた。」


 友里の心に優しく響く、声。友里は思い出す。つい、今朝の事だ。

 友里は思わずレインコートの吸血鬼を見上げる。


____ああ。吸血鬼だったのか。


 よく見れば、身長や予測体重が一致している。なぜ気がつかなかったのだろう。

 何も言わない友里に、吸血鬼は、言葉を続ける。


「だから、俺は、お前を救おう。」


 そう言って、吸血鬼は友里に手を伸ばす。

 友里は差し出された手を、呆然と見つめる。


 数秒その場に立ち止まってから、友里は決断をした。

 吸血鬼の手の方へ右腕を伸ばし………差し出されていた右手をはたきおとす。


 パァン


 軽い音が響く。

 レインコートの吸血鬼の表情は、使い捨てマスクに阻まれて覗くことは叶わない。が、いい表情はしていないだろう。

 友里は視線を前へと戻し、歩み出す。


「わたしは、もう、。」


 友里は、レインコートの吸血鬼のほうを振り返ることもなく、そう言い捨てる。

 彼女の瞳は、何もうつしていなかった。


 ◇◆◇


 太陽が地平線から昇るころ、全ては終わった。


 友里が下里町に着いたころには、すでにこの異変に周囲はざわめき立っていた。


 レインコートの吸血鬼と別れた友里は、そんな中、町に着いた。


 周囲の視線と興味が、一斉に友里に牙をむく。


「何があったの?」

「ねえ、大丈夫だった?」

「キャァァァァ!!血が、血が!!」


 返り血と、灰と、炭を被った友里。衣服にもそれらはついており、所々焦げたようなあとすら残っている。

 そんな様子の彼女に、視線が向かない訳がない。


 囲まれ、声をかけられ、詰問され、質問される。


 しかし、友里にその声は届いていなかった。

 言葉を、意味として理解ができない。

 周りの人間が、邪魔でしかない。

 こえに、意味が乗らない。


____これから、何をしようか………。


 友里は、理解できないを聞き流しながら、その場に立ちすくんだ。






 隣町まで、あと0キロ。

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