第21話

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッッッッ!!!!!」

 友里の咆哮。


 私のせいだ。

 弱い、私のせいだ。

 間抜けで、愚かで、救い用のない、私のせいだ!


 逃げられなかった弱い私のせいで、既に体温を失った兄。

 私の愚かな判断のせいで、囮になって死ぬことを強いられた母。

 寝ぼけた私の決断のせいで、くびり殺された父。


 ぜんぶ、全部全部、私のせいじゃないか!

 

 周りの炎は、いつの間にか小さくなってきている。

 地平線に沈んだ満月の変わりに、太陽が東の空から顔を出そうとしていた。


 友里は、ただただひたすら咆哮をあげていた。

 喉が掠れて血が口から漏れようとも、涙が溢れて服を濡らそうとも、強く握りしめた手のひらから血が出ようとも。


 えて、いて、いて、いて、えていた。


 ◇◆◇


 どれだけ彼女は泣き叫んでいたのだろうか。


 咆哮するための声がでなくなり、涙が枯れつきたころ、友里は、立ち上がった。


 もう、いつもの友里では、いられなかった。


 心を閉ざしきり、その内側に自らも引きこもる。

 友里は、惰性で動いた。


 生きるのは、別にどうでもいい。

 死んだって、構わない。

 ただ、ここにいるのは辛いから。兄の遺体を見続けるのが嫌だったから。友里は、その場から立ち上がり、歩き出す。


 一歩、一歩、一歩。

 前へ歩む。


 周りの景色が白黒に見える。焦げた看板の文字に色がつく。バラバラに落ちた木片を見れば、重さと個数が見えた。


 世界は、友里が3歳の時に戻った。



 数百メートルほど歩いたとき、げびた笑い声が後ろから聞こえてくる。

 振り返れば、そこには赤い瞳の大男。もう太陽が登りかけている事実から考えれば、混血BかAだろうか。きっと友里の声と血の匂いに引き寄せられたのだろう。


「…………。」


 でも、どうでもよかった。

 死んだら死んだで。


 大男は、何かを言っていたが、友里の脳はそれを言語として処理しなかった。もう、必要ないと思ったのだろう。


 友里は、前を見て足を進める。


 大男が何やら叫ぶ。けれども、言語にはならない。

 理解はしないしできない。


 気がつくと、目の前にも口許に白い使い捨てマスクを着けて、雨も降っていないのになぜか黒いレインコートを着た吸血鬼が立ちはだかっていた。


 黙って、その人の横を通り抜ける。


 後ろに迫る大男の気配。


 レインコートのポケットから使い古したナイフを取り出す吸血鬼。


 後ろを振り返らず、ただ前に進む友里。




 ぐちゅり











 水っぽい音が、友里の聞こえてくる。

 痛みも、何も感じない。


 思わず後ろを振り返る。


 友里の視界に、レインコートの吸血鬼が大男の首を掻き切る様子が、入り込む。



 友里の前に、絶望の姿をした、一欠片ひとかけらの希望が現れた瞬間だった。

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