第17話
「クソがァァァァァァア !!この女め、最初から、このつもりだったのかよ!!」
大声で、吠えるピアスの男。
目の前には、すでに生き絶えた優子。首元を
__これじゃ捕まえたことにはならねえ!しかも、ミスって足が遅いやつに三人を追いかけさせちまった!
そんなピアスの男の様子に、部下の吸血鬼は、タジタジとしてしまう。
すでに、優子を襲おうとしていた(いや、襲った)吸血鬼の集団はただのものを言わぬ肉塊へと変えたが、報告をしようにも、怒り狂ったピアスの男にはなかなか声がかけられない。
額の青筋をピクピクと痙攣させているピアスの男は、八つ当たりとばかりに近くの吸血鬼の死体を乱暴に蹴りつける。
グチャッ
死体はくの字に曲がり、数メートル空中を飛んだかと思うと、放物線を描いて焼けたアスファルトの上に落ちた。
当然、吸血鬼の体は人間の大人のそれと大差はない。つまり、ピアスの男は60キロ以上の物体を蹴り飛ばせる程度の脚力は持っているというわけだ。
もちろん、八つ当たりである以上、別に本気で蹴ったわけではない。
「こうなるんだったら、さっさと噛み殺しておけばよかった!!」
そう吠えるピアスの男はもはや先ほど勇介を小馬鹿にしていたような余裕ある姿ではない。
血のように赤い瞳が溢れそうになる程見開かれた目、振り乱した頭髪、開かれた口元から覗く鋭い犬歯。
怒り狂う吸血鬼の姿が、そこにあった。
◇◆◇
「やっべえ!来たぞ!」
杉田は思わずそう小声で叫ぶ。
「……もうこっちの存在はバレているから、小声で言っても意味ないですよ?」
勇介は杉田にそう言う。
直線は、後200メートルほど続く。もともとここは、商店街だったらしい。道の両端は勢いよく燃えた建物によって囲まれている。
友里は、走る足を止めずに、頭を働かせる。
__吸血鬼は、身体能力だけでなく、体力も人間よりある。このまま素直に直線で逃げ続ければ、ジリ貧。どうすればいい?どうすれば逃げられる?
周りは火事。小道で吸血鬼を巻こうにも、火の手が強すぎてそもそも道に入ることができない。建物の中に入るのは論外だ。
脳内の本棚を必死にあさり、あることを思いついた。
まだ後ろの吸血鬼と距離があることを確認してから、火事で崩れかけた二階建ての建物に駆け寄る。
そして、建物を蹴りつけた。
ごしゃっ!
火で脆くなっていた建物は、簡単にヒビが入った。
__読みどうり!
友里は、杉田に大声でこう叫んだ。
「杉田さん!手伝ってください!」
「え?何を!!」
杉田が友里に叫び返す。火事の轟音で聞き取りにくくなっているのだ。
「この建物の、手前側だけを蹴ってください!」
「お、おう!よくわからないが、わかった!」
何の建物だったかわからない建築物を破壊しだす三人。
それは、五十秒とかからずに轟音とともに終わりを迎えた。
「ここから離れて!」
友里の叫び声。
杉田は勇介に手を引かれながら、その場を離れた。
すると。
ズガァァァァァン!!!
「うおっ?!」
杉田は素っ頓狂な声をあげた。
吸血鬼と、友里たちの間に、大火をあげるバリケードが出来上がったのだ。
「逃げよう!」
友里の考えを理解した勇介はそういって杉田の手を引っ張る。
__隣町まで、あと1.5キロ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます