第16話

 カウントダウンが始まった直後、友里は勇介に連れられてその場から火の手が強い方向へと逃げ出した。


「兄さん!母さんが!」

「……良いから!友里、!!」


 勇介はそう叫ぶ。


__そうだ。わかっている。でも、だからなのに!


 強く引かれた右の手からは、勇介の必死さが見えてくる。

 ふと、背中から声をかけられる。


「何のことだかは分からないが、友里ちゃん、今、ここは逃げよう。」


 杉田の声だ。

 だが、友里はそれを無視して勇介に言い返す。


「分かっているわよ。どうせ、11なんでしょ!!でも、母さんは‼︎」

「だからだ!母さんは、命を張って僕たちの逃げる時間を稼いでくれている!!!」

「お、おいおい、マジでどういうことだよ!!話がわかんねえ?!」


 杉田は、半ば裏返った声でそう叫ぶ。

 3人はそう話し合いながら、走っている。勇介は、呆れたように言う。


「覚えていないのか?ピアスの男の吸血鬼が言っていたことだぞ?


 あのとき、あいつは、『俺ら』や、『俺たち十人』と言い換えていた。で、鬼ごっこの説明の時に、僕は『鬼はあなた達十人であっているか』と聞いた後、『逃げている間は、鬼はこの三人を襲わないか?』と質問した。その時の答えは覚えているか?」

「あー、襲わないって言っていたよな。」

?」

「……鬼が、じゃないのか?」


 きょとんとした様子の杉田に、勇介は頭を抱える。


「あの時、あいつは『襲わないでいてやろう。』って言っていた。つまり、十人のうちピアスの男以外の誰かが僕らを襲うか、11人目以上に吸血鬼がいて、そいつらが僕らを襲ってくるっていうわけだ!」

「え?!そういう意味なのかアレ!……でも、何で友里ちゃんは11人以上追っ手がいるって分かったんだ?」


 杉田は友里の方をみる。友里は、短く答えた。


「兄さんに、勝った後の事を言わなかったから。」


「えーっと……つまり?」


 相変わらずな杉田の様子に、友里はため息をつくと、


「あいつは、最初に鬼ごっこの説明をした時、勝ち負けの基準しか言わなかった。つまり、最初から私たちを逃すつもりなんてなかった。強いていうなら、殺す前に私たちを弄んで楽しんでから殺そうっていうことだと考えられる。」


 そう言い、友里は後ろを振り返る。

 まだ、追っ手はきていない。できるだけ離れた所に逃げなくては。


「もし兄が『勝ったら何があるか』と質問せずにゲームを始めるとする。

 負ければ、そのまま殺される。多分、目の前で私たちを惨殺して、『お前のせいでこいつらは死んだんだ!』って煽ってから殺すと思う。

 勝ったら勝ったで、殺される。『うん。おめでとう。じゃあ、さようなら。』ってね。

 つまり、ピアスの男はそんな不条理な条件のゲームを始めようとしていたの。

 で、そんな人が勝った後の事、何て言っていたか、覚えている?」

「アレだ。俺たちは追いかけないって、言っていた。」

「半分正解。でもそれすらも、不条理な条件のうち一つ。だって、のだもの。

 そして、その時に言っていた人数は『十人』。彼は、彼自身のプライドにかけて誓うと言っていたから、十人は追いかけないのでしょうね。十人は。」

「11人目は追いかけて、殺しにくる。__つまりは、そういう事だ。」


 勇介はそう言って、周囲を確認した。


「きている。一人だ。足はそこそこ遅い。」

「マジか!」


 杉田は小声で叫ぶという器用な事をする。

 小道を巡って吸血鬼追っ手を撒こうにも、あっちには鋭い嗅覚がある上、そもそも逃げれるような小道など、火事のせいで存在していない。


「直線で逃げるしかない……。」


 勇介は、思わずそう呟く。



__隣町まで、あと2キロ。

 

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