第14話
「俺はさぁ、知りたいことがあるんだ。」
ピアスの男は、にやにやと下卑た笑みを口元に浮かべながら、大げさに言う。
「この中の、リーダーは誰だ?そこの男?そこのガキの手を握っている女?頭が固そうなオスのガキ?」
____まあ、背の高い男だろうな。仲間と歩いていたが、あまりのポンコツ具合に見捨ててこの家族と合流したのだろうし。
ピアスの男がそう見当をつけていると、ある意味では意外な、けれども、あくまでも想定内の人物が一歩、足を前にだした。
「僕だ。」
「勇介!!」
優子が大きな声を出して、勇介の手をつかもうとするが、勇介はその手を振り払う。
__へえ。こっちか。
ピアスの男の口元が、引き締まる。少しだけ引き締まった表情で、ピアスの男は勇介に声をかける。
「えーっと、ユウスケだったか?お前には、いくつか質問をさせてもらう。ゲームを俺が楽しむために必要なことだ。__わからないことは正直に聞いてくれ。答えれることなら答えてやろう。」
「そうか。」
勇介は、返事をする。
一ミリたりとも動揺しない勇介のその姿に、ピアスの男は一瞬だけ眉をよせる。
「さて、最初の質問だ。この火事は、何の目的があると思う?」
「人間を野外に出し、判断力を鈍らせるため。また、逃げるところを制限したり、誘導をしたりして、効率的に人間を
「……ほう?他にあるか?」
「……ほかにも、火で視界を遮ったり、ヒトの動力を分散させるのにも一役買っているな。あとは、ここまで派手なことをすれば、マスコミにも大きく取り扱われるだろう。各地にいる吸血鬼を集めることもできるな。」
勇介の言葉を聞いた杉田が、「え?それ、やばいんじゃねえの?」とつぶやく。
ピアスの男は苦笑いして「当然だろ。」と答えた。どちらがやばいのかは、言わなかったが。
__つまり、これは彼らにとってはただの宣戦布告に過ぎないということか。
友里は、二人のやり取りを優子の背に隠れながら聞く。脳内の本棚をあさり、この状況を打破できる方法を探るも、いい方法は思いつかない。
周りの吸血鬼がとにかく邪魔なのだ。
「じゃあ、次の質問だ。お前の年齢は?」
「……13歳だ。」
「そうか。次、身長と体重、あと血液型。」
「169センチ、52キロだ。血液型は悪いがまだ調べていない。」
「ふーん、次、家族構成。」
「……父、母、妹の四人家族だった。」
「へえ、その男が父親?」
「違う。」
「じゃあ、次。ぶっちゃけ、成績はどれくらいだ?」
「中学校にはいってからまだ成績表をもらっていないからわからないな。」
「小学校の頃の全国テストの順位でいい。」
「……確か、100位以内だったはずだ。」
「ずいぶん頭がいいな。次、どっからここまで逃げてきた?」
「……三丁目のファミレスからだ。」
そう答えた瞬間、ピアスの男は本気で驚いたように、
「え?須賀のいるところからか?よく逃げてこれたな。」
といった。
周りの吸血鬼も、『須賀』の名前に反応して、ざわざわと声をもらす。
「……須賀って、『剣と盾』のメダルのネックレスをつけている人?」
友里が、思わず口をはさむ。
ピアスの男は、一瞬不愉快そうに友里のほうに赤い瞳を向けると、
「あー、あいつ、またそのネックレスをつけてんのか。」
とつぶやいた。
「ずいぶんと訳の分からないものばかりだったが、質問はそれだけか?」
勇介が口を開く。ピアスの男は、視線を勇介のほうにもどすと、
「ああ、悪い。まだいくつかあるが、須賀から逃げてこれたんだ。もう十分だ。あー、これから、ゲームの説明をするから、しっかり聞けよ?」
と、満面の笑みを浮かべて、そう言った。
勇介は、じっとりとした目でピアスの男を見つめる。
「単純に言えば、『鬼ごっこ』だ。制限時間は三分間。範囲は指定しない。どこに逃げたっていい。勇介、お前が逃げろ。鬼は俺らだ。俺らに捕まったら負けで、三分間逃げきれればお前の勝ち。」
「僕が勝ったら、何がある?」
「__俺ら十人が、お前らを襲わないことを誓おう。」
「何に誓う?」
勇介が挑発的にそう言うと、ピアスの男は自信に満ち溢れた表情で、
「俺の、プライドに誓ってやる。まあ、勝てたらだがな。」
と答えた。
「質問は以上か?」
「確認をさせてくれ。これからするのは、『鬼ごっこ』で、逃げるのは僕。鬼はあなたたち十人で、三分間『僕』があなた方に捕まらなければ勝ち。__あっているか?」
「ああ。あっている。」
「ついでに質問だ。僕が逃げている間、鬼はこの三人を襲わないか?」
「……まあいい。ハンデだ。俺らは襲わないでいてやろう。ほかの吸血鬼が来たら知らないが。」
「わかった。それでいい。」
勇介の声を聴き、ピアスの男は満足げにうなづく。そして、口を開きかけた、その時。
「逃げるのは、勇介でなくてはいけませんか?」
必死な声。懇願するような声が、響く。
母が、優子がそう質問した。
◇◆◇
「逃げるのは、勇介でなくてはいけませんか?」
女が、ふと口を開いた。
「はあ?何言ってんだ?当然、そうに決まっているだろ。」
「私では、だめですか?勇介は今、足を痛めているのですが。」
女のその発言に、今一つ意図がつかめず、ピアスの男は顔をゆがめた。
己の生存確率を上げるため?それとも
ピアスの男は、眉をひそめて勇介に質問をする。
「ユウスケ。お前、足を痛めているっていうのは、本当か?」
「……母さん。いつから気が付いていたの?」
勇介は、驚いたように優子に質問する。どうやら、本当らしい。
ピアスの男は、これから始まるはずだったゲームに、水を差されたような気分になった。
「……気分が萎えた。別に、お前でいいや。」
「……そうですか。それは、よかったです。」
「母さん、何をするつもり?」
女の後ろにいた小さいメスのガキが、そう聞く。女は何も答えない。ただただ、
「一応聞いておこう。お前の名前は?」
「秋田 優子。勇介の、母です。」
「そうか。じゃあ、めんどくさいし、十秒後に始めるぞ。__せいぜい、一分くらいはもてよ。」
ピアスの男は、吐き捨てるようにそういった。
優子と名乗った女は、静かに微笑みを浮かべていた。
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