第12話
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友里たちと杉田は、黙々と大火災の最中を進んでいく。
ふと、杉田が口を開いた。
「あいつら、大丈夫かな……」
「あいつらって、あの四人のことですか?」
勇介は、杉田にそう聞く。
「一応、会社の同僚だったんだよ。うまく逃げ切れればいいが……。」
「無理でしょうね。」
勇介は、断言する。
驚いた杉田は、「へぁ?!」と、よくわからない声をあげた。
「だって、吸血鬼から逃げている最中に、大声で不平不満を言える人達ですよ?」
吸血鬼に耳がないとでも思っていたのですかね?と、勇介はぼやく。
「途中から、あいつらは吸血鬼を呼んでんじゃないかと思えるレベルでした。」
「……つまり、危険だと判断したから、四人を切り捨てた、と?」
杉田は勇介を睨む。勇介は、目をそらして、
「……物は、言いようです。あの人達は、別行動を望みました。僕は、『そうしたらどうだ?』と言っただけです。」
と答えた。
気まずい空気が、勇介と杉田の間に吹き込む。
この流れを変えたいと思った杉田は、やたらに明るい声で、「そうだ!」と言ってから、友里に、
「そう言えば、なぜこんな火事の真っ只中を進んで行こうと思ったんだ?」
と聞く。
友里は、チラリと杉田のことを見て、答えた。
「……この火は、人間を家の外から出すために仕掛けられている。火の少ないところへ人間は逃げようとするのだから、そこに吸血鬼は待ち構える。」
「ああ、わかった!だから、火の勢いが強いところには、吸血鬼がいないのか。」
「……わかっていなかったのに、何でついてきたの?」
友里は、感心したようにうなづいている杉田に呆れたようにそう聞と、杉田は真顔で、
「カンだ。」
と、答えた。
勇介も、空いた口が塞がらなかった。
◇◆◇
「んだったんだよ、あいつら。」
杉田と行動していた男性のうち、一人が口を開く。
「知らねーよ。……とりあえず、焼け死ぬのはごめんだ。さっさと火の少ないところに行こうぜ。」
もう一人の男性がそういい、二人の女性も、それに従う。
__それが、大きな間違いであるとは気がつかずに。
「何で吸血鬼がいるの!!」
女性は、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、ヒステリックにそう叫ぶ。
今、彼らは十人の吸血鬼に囲まれていた。
女性の叫びに、派手なリングのピアスをした吸血鬼が、呆れたように、
「そんだけうるさくしてりゃあ、嫌でも見つかるだろ。」
と、言う。
「女!お前のせいじゃねえか!」
「嫌だぁ!!死にたくないぃ!!」
混乱しきった四人は、見苦しくもがき、悲鳴をあげる。
__なんで、こいつらここまで生きて来れたんだ?避難指定所に避難しないだけの脳みそは持ち合わせているはずだろ?
四人のあまりの情けない様子に違和感を覚えたピアスをつけた吸血鬼は、近くにいた男に、微笑んでこう聞いた。
「お前ら、死にたくないんだろ?__ちょっと、質問に答えてくれるか?」
__勇介は、一つ大きなミスを犯した。
逃げている最中、散々不平不満を大声で言いながら歩く人達だ。
声で、吸血鬼を呼ぶことを危惧した勇介の判断は、間違っていない。……間違って、いなかった。
しかし、そのあとのことを、考え忘れていた。
「なあ、お前ら、どうやってここまで逃げて来れたんだ?」
ピアスの男は、微笑みを崩さず、四人にそう聞く。
「いえば殺さないのか?!」
「私が言う!」
「黙ってろ!俺が答える!」
未だ見苦しい争いをしている四人の人間が、こう答える。
「杉田と、もう一人の男と一緒に逃げてきたんだ!」
「あいつら、俺らをおいて行きやがった!」
「ほんと、プライドないのよ!あの男!子供なんかに頭を下げて!」
ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃと。
__言っている事が、いまひとつ噛み合わない……
「つまり、杉田っていう男と一緒に逃げてきて、この辺でお前らをおいて、ほかのところに逃げたのか?」
「そうだ!」
「いや、ちょっと違うわ。三人の、小ちゃい女の子と、中学生くらいの男の子と、その母親の方に、ついて行ったの。」
女の言葉に、ピアスの男はさらに聞く。
「そいつらは、どこに逃げるって言っていた?」
「知らねえよ!火事のど真ん中を、どっかに向かって歩いて行ってたんだよ!まじでわけがわからなかった!」
__火事の、真ん中を、歩いていく……?!
ピアスの男の、微笑みが崩れる。思わず答えた男の襟首を掴むと、
「どこでそいつらと別れた?どこで会った?何分前に別れた?そいつらの血液型は?そいつらは何を言っていた?どこから逃げてきたと言っていた?そいつらの身長は?性別は?年齢は?何を持っていた?家族構成は?見た目は?何をきていた?何を知っている?どこに住んでいた?職業は何と言っていた?何を__」
豹変したピアスの男に、四人はさらに大きな悲鳴をあげる。命乞いに近いそれは、ピアスの男には煩わしくしか感じられなかった。
「おい、この男以外、お前らにやる。」
ピアスの男は、そう残り九人の吸血鬼たちにそういう。
「何で!答えたら殺さないんじゃないの?!」
もう、ピアスの男の興味は、完全に移り切っていた。
「教えろ。そいつらについてを。」
__俺がたてた、完璧な作戦の穴をついた、そいつらを。
絶望からは、逃れきれていなかった。
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